SA 25. お姉さんたちの噂

「さっきお前たちがひと悶着を起こした輩だが、ここいら一帯で活動している不良グループだと彼女たちが言っていた。ああ、ちなみに彼女たちは氏の社員ではないらしい」

「不良グループですか。反社かどうかは聞き出せましたか?」

「不明瞭ではあるが、反社ではないらしいな。いつも同じ人物とつるんでいる、学生の不良のようだとも」

 アンジェラが口元に手を当て、眉間を潜める。代わりにサラが疑問を呈した。

「じゃあさ、なんであんなに空気が重かったんだろ? ただの不良なんでしょ?」

 ダンの眼光はすっかり落ち着き、普段のやや穏やかな色でサラを見る。

「ただの不良なんだが、相当に幅を利かせているというな。性別年齢に関係なく、暴力、暴行、強奪は当たり前、傷害を通り越したなんて噂もあるらしい。氏の事件も彼等、ここいらではメルダと呼ばれているらしいが、そいつらがやったんじゃないかってもっぱらの噂だ。けれども、目撃者は誰もいない」

 サラは目線を上向かせる。そういえば、表情筋不全の男以外は団子のように固まって歩いていたなあと、天上から吊るされているランタン調のライトを眺めて思った。

 アンジェラが口から手を離す。

「……名前が判明していない?」

 ダンは足を組みなおし、ついでに腕も組む。

「恐らくは。何度か話を振ったんだが答えはなかった。口に出すのをはばかった、という素振りもない。なら、公表されていない可能性が高い」

「そうとなれば、逮捕をされたこともないかもしれませんね。もみ消してもらっているか、もみ消されているか……」

 サラはソファーの背もたれに深く寄りかかる。スマートフォンで顔をぱたぱたとあおぐ。

「どっちにしてもさっきの男の人たちの背後に、なんか偉い人がいるってこと?」

「ありていに言えば、そうなるな。噂を信じるのであれば、今回の依頼もそうである・・・・・とも考えられる。俺が聞いたのはこれくらいか」

 アンジェラは頷き「では」と、自身が聞きかじった噂をダンに共有した。彼もやはりカールに関して思うところがあったのか、オリヴェイラに隠れて私刑を行っているということを聞かされても、眉一つ動かすことはなかった。

 短い話の後、アンジェラは自身のスマートフォンをテーブルに置き起動させる。そこからメモを開き、指を滑らせた。

「調べることとしては、氏の引っ付き虫の詳細と制裁の調査、不良グループの調査とその背後関係、あとは警察ってところですかね」

 彼女はそこまで記してスマートフォンを伏せて、肩の力を抜いた。

 サラも腕を伸ばしす。短時間であったのに堅苦しい話をしていたせいか、体が凝っていた。ついでに首も左右に倒してほぐしていると、ダンから「それで」と話を振られる。

「お前はアイツに何を言ったんだ」

 テーブルに頬杖を付き、不穏な光を瞳に宿し、ダンがサラを見ていた。

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