SA 24. ダンの帰還
アンジェラは肺を大きく膨らませて空気を押し込み、鼻からゆっくりと吐き出す。コーヒーの表面が微かに波打つ。サラがサンドイッチに手を伸ばしたので、彼女も思い出したようにテーブルに落ちていたサンドイッチを拾い、口をつけた。
研修時代からの縁で気安い仲であっても、サラの威嚇はアンジェラに効いた。サラの機嫌をちらちらと窺いながらサンドイッチをちまちまと食む姿は、まさしく怯えだ。
少しやり過ぎただろうか、とサラが思案している時、ソファーと衝立の壁越しに「きゃ」という女性の小さな悲鳴が上がった。ダンと共に喫していた女性のどちらかだろう。耳を澄ますとダンが謝っている。女性たちは怒っているふうもなく、しきりに謝るダンを宥めているようだ。会話の内容からして、ダンが飲み物をこぼしてしまって、女性たちの方へ流れたか、飛び散ったかしたのだろう。
アンジェラも背筋を伸ばして衝立の壁向こうを気にしている様子だ。サラがひょいと肩を上げて、呆れまぎれに息を付くと小さく笑った。
「ヒューストンでもやらかすんだね」
「いっつも取り繕ってるだけだよ」
鼻息を荒く、サラは手にしていたサンドイッチの欠片を一気に口に押し入れる。リスのように頬を膨らませて咀嚼する様はまったくもってマナー違反だが、彼女らしいとアンジェラは笑う。
そうこうしているとダンが先行して、見覚えのある二人の女性が現れた。揃って出入り口に向かっているようだ。時間を確認してみれば、それなりの時間が経っており、休憩時間が終わりそうなのかもしれない。
ダンは出入り口へ手を差し伸べ、女性たちは促されるまま彼の前を通り過ぎる。店内から出ていく間際に揃って振り返り、彼に手を振って別れを告げた。
彼女たちの姿が見えなくなって、ようやくダンの肩から力が抜けた。
「お疲れー」
サラが朗かに彼を呼べば、眉間にしっかりとしわを寄せた渋面でダンが振り返った。
「お前なあ……」
本日のダンは情緒が不安定なのだろうか。本日二度目の低い声がサラを指名して発せられる。されど、サラは堪えるどころかにやりと嫌な笑みを浮かべた。
ダンが今にも舌打ちをしそうな形相で、たまたま空いていたサラの隣の席に腰を落ち着けるや荒々しく足を組み、じろりと鋭い眼光をサラにぶつける。
サラは笑っているが、アンジェラは気まずげにおずおずと訊ねた。
「何か収穫はありました?」
ダンの強い眼光の圧が少しだけ弱まり、アンジェラへ相対した。
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