第11話 妄想屋

妄想が集まる。

妄想屋に集まる。

妄想屋の夜羽はそれを楽しんでいた。

夢や妄想は飛べない人間の羽根だとも思う。

飛べないから魂だけあこがれ出る。

古語では「あくがる」と言い、魂が身から離れ、上の空になることを指すそうだ。

妄想はそんな時に拾ってくる物なのか、或いは違うのか。

妄想はとらえどころがない。

量だけ拾えばいくらでもあるのに。

夜羽は溜息を軽くつき、スプリッツァを口にした。


『私は捕らわれているんです…熱病のような…何かに』

夜羽は新しい妄想テープを再生している。

『彼の視線が耐え難いんです…全てをさらけ出しているような…』

『こんな感覚は初めてなんです…』

『きっと彼も同じだと思うんです…』

『捕らわれているそこから逃げたいとは思わないのです…』

『彼に一日逢えないと気が狂いそうなんです…』

夜羽はこの類の妄想を聞いた事がある。

『恋』

夜羽は妄想テープにそう記した。


夜羽はバーのマスターに一言告げると、斜陽街に散歩に出た。

気晴らしにはちょうどいいのだ。

時折、失せ人探し中の探偵や、

やっぱり散歩している酒屋に会ったりして退屈しない。

暇があれば電脳中心にも行くし、

二番街の占い屋にも行く。

そんな折から妄想を見つけたりもする。

妄想は待っていてもやってくる物だけど、

行動していると違った毛色の妄想が見つかっていい物かもしれない。


斜陽街の風が吹いた。

夜羽は『風2』という妄想を再生させた。

『風は僕の脳から揺れるんです…』

テープレコーダーに風が集う。

『波は風から、風は僕から…』

空気が震える。

『あたたかい地球の中心には僕がいるんです…僕が風を吹かせているんです…』

ふわりと風が巡り…

『僕が考え、感じることで風が吹くんです…』

風はやがて散っていった。

『僕が…風を…』

テープもやがて止まった。


夜羽は斜陽街を見渡した。

夜羽はこの街が大好きだ。

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