第11話 水切りに挑戦する食事後!
家の外で、みんなでいただく食事は、ふだんよりもおいしいと感じるものだ。
焼けた肉と野菜は最高だった。苺も東雲姉妹も、みんな楽しくやれた。
「食べたね、兄貴」
「苺は安定の食いっぷりだったな」
「私以外の女子に、そういうこといっちゃダメだよ」
「わかってるさ」
俺たち赤坂チームは、食いまくった。胃のキャパシティが常人より上をいくふたりなのだ。
その勢いを見て縮こまったのか、あまり東雲姉妹が食べている様子はなかった。
「私、少食だから。燃費抜群!」
「愛弓と同じかな、私も。なんだろう、めちゃくちゃ量を食べたい! とは思わないんだよね」
「そうなのか」
「おいしいものは、ゆっくり味わってみたいというのかな?」
「もっともだな」
「純矢さんは、違うんでしょう?」
「いっぱい食べたい」
若い男の人って感じでいいと思うよ、と李里花さんはいってくれた。気を遣われた
ような気もするが、褒められたことに変わりはない。その気持ち、ありがたく受け取っておこう。
「もう食材もないし、このあとどうしようか」
「そりゃ運動でしょう! 食べた分、動かないと!」
李里花はアクティブだった。動かずにはいられないのだろう。
「理解不能。わざわざ動く必要がない。わからない、私には」
ノー、という意思を愛弓は示した。
「自然の中、息を吸う。それだけで私はいいの」
「愛弓ちゃん、せっかくだし、ちょっと動いてみない? 私は運動したいし、兄貴は?」
「ま、いちおう俺も……川があるし、水切りでもしたらどうかって」
水切り、という言葉に愛弓はビクッと反応した。
「み、水切りならいく。私の
目をキラキラさせている。さっきまでとは大違いだ。
「最初からこういえばよかったのか」
「完全に盲点だった! 純矢さん、姉妹じゃないのによくわかったわね」
「たまたまだよ。とにかく、そういうことだ。川の方に行くとするか」
「さんせー!」
かくして、俺たちは川に遊びに行くこととなった。
「……おかしい、話に聞いてない! クーリングオフの対象! 騙した、みんな私を騙した!」
珍しく、自称ミステリアス系女子の愛弓は怒っていた。
川まで、俺たちが拠点としたところからは距離があった。ちんたら歩くと、時間がかかってしまう。なら、走って時短しようじゃないか――。
「ふぅー、食後のいい運動になったね!」
「うん」
「ああ」
「はぁ……はぁ……ありえない」
激しい運動を嫌い、水切りならいいといった愛弓に対して、姉の李里花は容赦がなさすぎる。走りたくないといった言葉を、彼女は覚えていなかったんだろうか。
「愛弓は、そうやって苦手なことから頑なに逃げるんだもん。運動は、別に悪いことじゃないしさ」
「むぎゅぎゅ」
「それに愛弓、笑ってるもん」
俺は愛弓に目線を向けた。
彼女の表情が普段よりも明るく、そして楽しげに見えた。
「いい表情をするじゃないか、愛弓」
「お、お兄さん先生のばか! 女たらし!」
「そんないうことないじゃない」
なぜか、俺の背中を後ろからポンポンと叩かれた。愛弓はやや背が低いので、俺の腰の、下側をやられた。地味に痛い。
「恥ずかしい。私のこんな姿が見られるの」
「そう感じることはない。これから一年間の付き合いだ。互いのことを、否が応でも深く知ることになるんだ」
「結果が同じでも、過程は気にする」
昂った感情は、だんだんと抑えられてきたらしい。
まぁ、今回はいいけど、と態度を軟化させてきた。
「よし、これからは愛弓の見せ場じゃないか。水切りテクニック、気になるな」
「私に任せて」
川は、そこそこ人がいた。子供の声が多い。家族連れだろう。
まずは石の選別らしい。割とじっくり時間をかけていたので、他の三人も、同じように石を探す。
「せーの、で投げるか」
この案が採用され、石を選別しまくっていた愛弓から、スタート。
「見てて、私の神技」
洗練されたフォームから、シュッと石が放たれる。
水面に触れた石は、そのままドボンと落ちる……ということもなく、軽快かつリズミカルに、水を切っていく。
何連続だろうか。
かなり遠いところまで、石はいった。
「す、すごいな。ふつうにびびった」
「ふ、当然」
ドヤ顔だった。これはそうなっても仕方あるまい。本当にびっくりだ。
そのまま、二発目。
これもまた、一回目には劣るが遠くまでいった。
近くにいた少年少女も、二回目となると異常事態に気づいていた。
――この川に、プロがいる。
……とでもいうべきか。ちょっとざわついた。この後に、しょぼいショットを投げる気にはなれない。
「すげー!」「お姉ちゃん神!」「もう一回やって〜」
取り囲む子どもたちにちょっと嫌な顔をしていたが、求められると受け入れるタチらしい。
三回目。
ここで、本日の最高記録を更新。もはや対岸に辿り着くんじゃなかろうか。
それはいいすぎにしても、盛り上がるには充分だった。
「どこでそんなテクニックを?」
俺は聞かざるをえなかった。気になってしょうがない。
「近所の川。昔住んでいたところのあたりで、ひとりで何時間もやってた。やばいやつがいる、とあれは小学生の……」
「オーケー、悲しき歴史を掘り起こすつもりはない。愛弓はすごい。それがわかっただけでも、俺はハッピーだ」
「えへへ。私はすごい」
「なんだか楽しげでいいことだ。ミステリアスさも消えたな」
あ、と愛弓は気づいたらしい。
いつものクールで淡々とした感じはなく、どこか李里花を思わせるものがある。双子姉妹なので、当然といえばそれまでだが、非常に似ていた。
「私は子どもじゃない。お姉ちゃんみたいな口調にはならない」
「無理をするな、ボロが出まくりだ」
子どもたちは見破っており、素直だが鋭利な言葉が、愛弓の企みが失敗であることを告げていた。
それから、子どもたちが離れた後、俺たちも水切りに挑戦することにした。
「ほれっ」
愛弓のようにはいかなかった。十何回とやって、数えるくらいの小さな成功があっただけだ。
苺はいい線をいっていたが、愛弓レベルには届かず。
李里花はてんでだめだった。
「私、自信を持てた。アルバイトの履歴書に書ける」
「書くな。変人だと思われて切られる」
「大丈夫。水切り検定を私が作って、英検レベルの知名度にすればいい」
「現実を見ろ」
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