第293話 雉も鳴かずば打たれまい その3
俺の妨害工作が功を奏したのか、それからの3週間は何事も起こらず、工事も着々と進み、トータルで80km以上は完了している。
そもそもだが俺の所属する国の事じゃないし、別に俺の身内にが居が及んで居る訳では無い。
別に積極的に殺したい訳じゃ無いので、何も妨害もちょっかいも無いに越した事は無い。
ここらで、もう一度偵察を兼ねて妨害工作をして置くべきだろうと、工事の合間にちょこちょことお出かけして確認してみたら、城壁が崩れて悲惨な砦を500名くらいで必死に復旧中で進軍処では無い様子であった。
これなら、食料だけ頂けば十分だろう・・・。
またもや勝手知ったる食料備蓄庫にお邪魔して必死で戻したであろう食料を『時空間庫』にホイホイと移し入れて回収しておいたのだった。
これで2ヵ月くらいは稼げただろうか?
尤も敵の砦はここだけでもなさそうだが横同士の連携や連絡も取れて無さそうなので暫しは大丈夫だろう。
最悪他の動きあったらそっちも同じ対応で撃退しよう。
平野部はまだ残り、200km以上続く当初全体で300kmって聞いていていたのだが実際の杭の位置をトレースすると全然300kmなんかで済まない気がしているのだ。勿論山間部を除いての話である。
この迷惑な隣国のマルローデリアン王国だっけ?此奴ら対策だけで考えると欲しいのは平野部だけで山岳地帯の城壁は要らない気がして来たのだ。
何で国家や人ってもっと穏便に仲良く出来ないのかな? 本当に人って業が深いな。
え?人を殺めたお前が言うな!って? だっていきなり問答無用で弓矢で射られたからね。正当防衛を主張するよ。と今の俺なら平気で言えるけど、日本に居た時の俺では考えられない事だし。
そう言う意味でも精神的にこの世界向けに強化されてるんだろうか?
そうじゃなければ、魔の森での生活で既に壊れてたかも知れないな。身体だけで無く、精神にも補強入ってても不思議はないのか。
さて、そんな心の中のボヤキや独り言は事は置いて置いて今日もせっせと城壁を築き上げる。
何時もの事だがこうして1人作業をしつつ考えていると、どうしても独り言が多くなってしょうがない。家族の前で出さない様にしないと気味悪がられてしまうからね。
漸く国境線の総延長のズレの謎が解明したと思う。
そもそもだが、杭自体が適当に打たれていて忠実に杭の位置を信じて守った俺がバカだったってオチだ。
一応ヘイルウッド公王陛下に確認の為に一言断りを煎れた後は杭はあくまで参考として、過去に遡って極端に角が付いた部分を滑らかなスプライン状にやり直したりして見た目の辺な部分を修正したのであった。
序でに山間部は無駄なので止める様にも進言しておいた。
その分工費が安くなるので不安はあるものの、進軍し難い山間部から国境線を越えてくる事は無いだろうと言う俺の解説を信じる事にしたらしい。
まあ最悪越えて来たらゲートと飛行船で援軍を送れば良いだけだし。何とでもなるだろう。
飛行船の軍事利用は禁止して居るが人員の輸送等はカウントしない事にしているので大丈夫と言ってあるし。
更に2ヵ月が過ぎた頃、上空から監視をしていた飛行船が、建設のスタート地点に向かって来る10騎の竜騎兵を発見したとの連絡を貰った。
以前と違い、スタート地点の反対側方向にも城壁を伸ばして居るので今頃偵察に来たところで何もしようが無いのだが、ちょっと面白そうなので見物しにスタート地点へとゲートでショートカットしたのだった。
「お!来た来た。」と城壁の上から、お茶を飲みつつ見下ろす見物モードの俺。
「なんじゃこりゃー!おい、急いで報告せねば!」と騒ぐ隊長っぽい人物。
「隊長、城壁もですが、あそこに何な変な長細い丸っこいのが飛んでます。」と俺の背後の上空に居る飛行船を指差し驚く隊員の1人。
俺は飛行船に電話してユックリ俺の近くまで降下して奴らの上を旋回してやる様に指示を飛ばすと電話の向こうでクックックと笑う声の後に「了解。」と言って電話が切れたのだった。
飛行船が俺の背後の高さまでユックリ近付いて来るとギャーギャーと地上で狼狽える偵察部隊の10人。
更に飛行船と一緒に俺も、重力制御を使って浮遊して、飛行船の隣を併走してやると、完全にパニックになって居た。
「地上のマルローデリアン王国の兵士に告ぐ。其処から先はヘイルウッド公国の領土である。足を踏み入れようとするなら、我らも上空よりお前らの王都に岩の雨を降らせる事になるやも知れん。戻って上層部に伝える
が良い。」と勝手に宣言してやると、その後、飛行船から再度電話があり、「あの啖呵陛下にもお聞かせしたかったっす!痺れました!」と絶賛を受けたのであった。
こうなったら、どうせ直ぐに攻略しに来る事は無かろうとも完成を急がねばな・・・。
■■■
漸く山間部を除いた城壁が出来上がったのは更に3ヵ月が過ぎた頃で、等間隔に監視用の塔を配置して、カメラとモニター複数個を繋いで本格的な防犯センターばりの関したわーに仕上げたのだった。
勿論、各監視塔にはゲートを配備して居るので、シフトで交代も援軍派遣も自由自在である。
漸く完成した事も在り、俺は完成の報告も兼ねてとある進言をヘイルウッド公王陛下に行う事にした。
進言とは簡単な物で家の貸し出し機と公国の機体の2機編隊で敵国の王都上空を威嚇飛行しようと言う物だ。
恐らく、敵国上層部は先の偵察兵の報告を握り潰すか隠匿して無かった事にしている可能性がある。
上層部の目の前に目立つ2機編隊で現れれば、流石に無かった事にも戦力の差を隠す事も出来ないだろう!?と言う内側から精神的に優位に立つ狙いの作戦である。
抑止力は誇示してこそ効果があるのだ。
俺の提案に今までの溜まったフラストレーションを晴らすかの様にヘイルウッド公王陛下は直ぐに作戦行動に移ろうと乗って来たのだった。
翌日、完成した『万里の長城』の1号監視塔(元スタート地点)に着陸した飛行船に乗り込むヘイルウッド公王陛下とこの液師団長、宰相、それに何故か提案者枠の俺。
先頭をヘイルウッド公国機は飛び、後ろを家の機体が追従する感じとなる。
あくまで軍事行動ではなく、警告を兼ねた威力偵察である。
行き掛けに件の砦上空と王都上空とで特急で俺が用意したビラをバラ撒く予定である。
ビラの内容はちょっかいを出すならビラの代わりに岩や火の雨が降るぞ!と言う判り易い文面となって居る。
こうして、2機の飛行船による威嚇飛行が始まったのであった。
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