第5話 別荘到着

 三人で小道を歩いていくと、やがて別荘が集まって立っている場所に着いた。




 その別荘へと続く道路の入り口には『貸別荘ヴァラエティー・ビレッジ』という看板が掛けられていた。


 ここには個性的な様々な外観の貸別荘が建ち並んでいた。

 石造りや、レンガの洋館、木製の別荘から和風の別荘まで、建築様式までもが異なった別荘だった。


 宿泊希望者の多様なニーズに答える為に建てた別荘のエリアなのであろうが、姫子には、自然が豊かな軽井沢と言う場所には、やはりこの不統一な雰囲気が、景観を損ねてしまっているような気がして残念に思ってしまった。


(確かに私のように、自然との調和が感じられる木調の住居に泊まりたがるお客様ばかりでは無いですものね。

 いけないわね、否定的な印象なんて持ってしまって。)

姫子は心の中で、自分に軽く注意をしていた。

 


軽く首を振ってふと前方を見上げると、姫子の視界の中に風見鶏が飛び込んできた。


 そう。

 そしてこの風見鶏の別荘は、先程けんちゃんから教えてもらった特徴である『緑色の屋根の上に黒い風見鶏が飾られた、天然木の壁でできた大きな別荘』という条件を全て兼ね備えていた。




 「あの別荘、姫子さんがけんちゃんから聞いて下さった外観通りですね。

 姫子さん、本当にありましたね。」


 時を同じくして外観に気が付いた薫も、喜びながら姫子に話しかけて来ていた。




 「ええ、どうやら着いたようですね。



 けんちゃん、この別荘は、けんちゃんが泊っている所かな?」


 姫子がけんちゃんにたずねた。




 「・・・うん。」


 けんちゃんが入り口の方を見つめながら、遠慮がちに答えた。


 ピッタリと閉まっている扉には、飛び出してきた罪悪感も重なって、否定的な雰囲気を自分に与えているようにけんちゃんは感じたのであろうか。



 「けんちゃん、もしもパパが怒っていたとしても、やっぱりそれと同じ位けんちゃんの事も心配していると思うよ。


  だって、こんなに優しいけんちゃんのパパなんだもんね。


  だから、今からちゃんと仲直りをしようよ。


  今から私が、パパを呼んでもいいかな?」



 姫子の話を聞いて、けんちゃんがコクリと頷いた。




 その返事を確認して、姫子は、別荘のインターホンを鳴らした。






 「はい、どちら様ですか?」


 低い男性の声がインターホンから聞こえてきた。




 「突然すみません。こちらは、この男の子のお宅でしょうか?」


 姫子がインターホンに向かって話しかけ、少し脇によけた。



 そして姫子の隣では、インターホン内蔵のカメラにけんちゃんが映るように、薫がけんちゃんを抱き上げて立っていた。




 「パパ、ごめんなさい。」


 けんちゃんが、姫子との約束通りに開口一番、父親に謝った。




 「健太郎。

  お前、今まで何処に出掛けていたんだ。

  急にいなくなったりして、心配するだろ。」


 けんちゃんがその場にいる事に気が付いた男性の声が、今までより早口になって、返事をしてきた。




 「お父様、すみませんでした。


どうか健太郎君を怒らないであげて下さい。」


 姫子が父親を落ち着かせようと、出来るだけゆっくりと言った。




 「あなたは?」




 「私は、姫子と申します。散歩中に、小さな男の子が一人で林道を歩いていましたので、心配でしたからここまで一緒についてきました。」




 「そうですか。それは息子がお手数をおかけいたしました。


少々お待ち下さい、すぐにそちらに参ります。」


 その声がして、早々にインターホンは切れた。


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