第30話-早朝の一発勝負
――そうして、夜は更けていった。
翌日、祈吏が目覚めてリビングへ向かうと、ヨゼは夜間にどこかへ出かけていた様子だった。
酒の匂いをまとい、少しくたびれた様子でソファに横たわるそのさまは色香さえ感じるもので。
だが祈吏の目から見ると『夜遊びして体調が万全じゃない人』にしか見えず、慌ててヨゼに駆け寄った。
「ヨゼさん! 大丈夫ですか、どちらへ行かれてたんですか!」
「うう……おはよぉ、祈吏くん。昨晩はちょっと酒場にね……」
「酒場に!?」
「勧められるがまま呑んでしまったよ。この身体、あまり酒は得意じゃないんだけどね。でも、この国のビールは美味しいね」
そう言いながら上半身を起こし、ヨゼはいつもの朗らかな笑みを浮かべた。
「祈吏くん、朗報だよ。これから今すぐフーゴさんの店へ行こう」
「えっ!? わ、分かりました……!!」
――ヨゼに急かされるがまま、朝霧が漂う街を急ぎ足で進む。
道中、祈吏は『何故そんなに急ぐのか』と訊こうとしたが、それよりも先にヨゼが理由を語り始めた。
「いっそのこと、手紙の送り主を確かめてみようと思ったんだ」
「そんなことできるんですか!?」
「うん。君ならきっとできる!」
「自分がやるんですか!?」
ヨゼの話を詳しく聞いてみるとこうだった。
週に2回、早朝に酒場の下っ端が酒瓶の回収に各家庭を回るという。今日がまさにその日で、千載一遇のチャンスだと。
外にそのまま空瓶を置いておくと窃盗の可能性もあるご時世のため、直接の手渡しか、当日の早朝の時間帯だけ裏口を開けておき、回収してもらう等が主なやり取りらしい。
そして、フーゴの店の場合は後者とのことだった。
「今の時間帯なら、店の裏口が開いている。僕は店側から彼に声をかけて気を引くからその間、祈吏くんは裏口から入って手掛かりを探してきて欲しい」
「ヨゼさん、そんな大胆なこと自分にはできませんよ……!」
「大丈夫!
(そんな簡単に言われても! でもヨゼさんは本気みたいだし……やるしかないのかな)
祈吏は恐々としているうちに、気付けば靴屋の目の前まで着いてしまっていた。
「それでは、頼りにしているよ」
「もう……どうなっても知りませんからね!」
促されるがまま、祈吏は店の裏へ向かう。
そしてヨゼはタイミングを見て店の扉を叩いた。
――フーゴはこの日、目が覚めてから仕事をしていた。
カウンター奥の作業台に向かいしばらく経ち、コーヒーを1杯飲もうかと背伸びをした時、店の扉を叩く音が響く。
こんな時間に誰だ、と疑心が湧いたが、昨夜の来客2人を思い出し、作業場から離れた。
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