第4話 ダンジョンに行こう

 平凡な男子高校生だったはずの僕、犬飼透は、ある日、自宅の近くでダンボールと一緒に捨てられていた一匹の子犬と出会う。


 雨に打たれたその子犬を見捨てることができなかった僕は、気まぐれで子犬を拾うことにした。


 すると、拾った子犬はただの子犬ではなかった。


 なんと、世間では凶悪凶暴の代名詞ともなってる——【モンスター】だったのだ。


 それを知ったのは、僕がその子犬に〝ポチ〟という名前を付けたことで覚醒したスキル——【テイム】による効果。


 そう。ポチと出会ったことで僕はかつての夢だった【覚醒者】になったのだ。


 しかし、それと同時にポチがモンスターであることが発覚。これで探索者になれると考える間もなく、僕はポチを普通のペットとして育てることに決めた。


 ポチがダンジョンに行きたいと言わないかぎり、僕はポチをモンスターとは扱わない。




 そして、ポチを拾ってから一日。


 昨日、あまりにも可愛すぎるポチとさんざん遊び倒して眠ったあと、外から聞こえる小鳥の囀りで目を覚ました。


 覚醒した意識で瞼を開けると、視界には見慣れた天井が映————らない。なぜか目を開けているはずなのに真っ暗だった。しかも顔に妙な重さを感じる。


 たぶん何かが顔に乗ってるせいだと思った僕は、その正体に確信を抱きながらも一応は謎の塊を片手で掴んでどけた。


 一気に視界に広がる。


 次いで、僕の目に飛び込んできたのは……。


「……やっぱりポチだったか……」


 ぐぅぐぅと気持ち良さそうな顔で眠るポチの姿だった。


 どうやら、一緒のベッドで寝ている内に寝ぼけてかわざとか、僕の顔に乗っかっていたらしい。


 息苦しいだろうによく途中で目を覚まさなかったものだ。


 口が無事だったから呼吸に問題がなかったせいかな?


 まあいい。


 そっとポチを起こさないようベッドの片すみへ置くと、グッと背筋を伸ばして布団から出る。


 今日は休日の土曜日だ。


 今日と明日は学校が休みなので自由な時間がとれる。やることと言えばポチと遊ぶくらいだが、モンスターでも見た目は犬だし、散歩とかしたほうがいいよね。


 リビングに設置されたテレビを点けると、朝のニュースが放送されていた。


 内容は、ダンジョン探索について。


 なになにギルドのなになにが、第なん層をクリアした、とか犠牲者が出た、とかそういう話題だ。最近では珍しくもない。


 そんなニュースを横目に、簡単な朝食を作っていく。


 すると、


「わふわふっ!」


 いつの間にか起きていたポチが、素早く床を蹴って僕のそばに寄る。


 前足を使ってこちらの脚を掴む動作に、思わず心臓が張り裂けそうになった。


 その嬉しそうな顔で僕を見上げないでほしい。キュン死する。


 はふはふと朝から興奮するポチを、「料理するから危ないよ。向こうで待っててね」とキッチンから追い出し、にやける顔のままパンを焼いたりベーコンや卵を使っておかずを作る。


 朝といえばパンにベーコンエッグ! と言わんばかりの一般的な朝食を二人分用意してリビングに戻ると、ポチが「わんわんっ」と声高らかに叫びながらテレビを凝視していた。


 皿をテーブルに置きながらちらりと内容を確認すると……。


「これって、ダンジョンのニュースか。……もしかして、興味あるのかい? ポチ」


 僕がそう言うと、ポチは視線をこちらに向けて「わんっ」と短く答えた。


 ポチくらい頭がいいと、恐らく「そのとおり」ってところか。


「モンスターだし、きっとダンジョンにも興味を示すだろうなあとは思っていたが……ここまで予想どおりだと逆にびっくりするね。そんなにダンジョンに行きたい?」


「わふっ」


 またしても短く答えると、ポチは勢いよく僕に飛び掛ってくる。体重の軽いポチを腕を使ってキャッチすると、勢いに負けて後ろのソファに倒れた。


「ちょ、危ないよポチ。人に飛び掛っちゃダメ。わかった?」


 しっかりポチに常識を教える。賢い子だからわかってくれるだろう。


 ポチは「くぅ~ん……」と申し訳なさそうに鳴いた。人間風に言うと、「しょぼん」みたいな顔で可愛い。


 笑顔を浮かべてポチの頭を撫でる。


「よしよし。ポチがお利口さんなら、ちゃんとダンジョンに連れていってあげるよ」


「! わんわんっ」


 嬉しそうにポチが鳴く。


「でも先に朝食を食べてからね? ダンジョンにいくなら朝食は大事だよ」


 そう言ってポチを床に置くと、ポチ用の皿を差し出す。ポチはモンスターだから人間の食事を食べても平気らしい。スキルの影響でモンスターに関する知識も増えた。モンスターって雑食なんだね……。




 がつがつと勢いよく食べ始めたポチを眺めながら、僕はくすりと笑って自分も朝食を食べはじめる。


 ダンジョンに潜るには、まず探索者シーカーとして登録しないといけない。探索者協会にて。


「僕も初めて行くけど場所は知ってるし……大丈夫だよね?」


 僕の呟きをポチが拾う。


「わんっ!」


 口元にべったりと料理のカスを付けていたので、元気そうに尻尾を振るポチの顔をティッシュで拭きながら、最後にこう返した。




「楽しみだね」

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