第17話 ゲルトナーとレスバトル(笑)
あの後、校門で守衛さんと一悶着あり(結局、顔見知りということでなんとか例外的に通してもらえた)つつも無事に構内に侵……進入することに成功した私は、リアちゃんを伴って教務課へと向かう。
四年間、通い慣れた母校だ。つい数週間前に卒業したばっかりだってのに、なんだかもう随分と懐かしく感じちゃうのはどうしてだろうね。
もう二度と学生としてこの学び舎で過ごすことはないんだなぁ……と思ったら、不覚にも物悲しい気持ちになってしまう。
そんな私の様子に気付いてか気付かないでか、リアちゃんは小さく微笑んでから教務課の扉をノックした。
「二年のリア・エンゲルスです。失礼いたします」
礼儀正しく入室の挨拶をするリアちゃん。こういうところにも育ちの良さが滲み出ている。
「すみません、進級試験の追試験を申請したいんですけど……」
「あら、魔力を溜め込む以外に何もできないあなたが?」
その時、急に掛けられた言葉に思わず思考停止してしまう。内容を理解するのに数秒を要してしまった。
この嫌味ったらしい口調、高飛車な性格を感じさせる耳障りな声。間違いない。
「ゲルトナー……」
「先生をつけなさい、この小娘が!」
そろそろ中年に差し掛かりそうな、もう「若い」とは逆立ちしても言えない年齢の女教師。属性だけを見れば「高学歴」、「女教師」、「いいところの令嬢」とモテる要素抜群なのにもかかわらず、本人のあまりの性格のキツさに寄る男すべてが自然と離れていくことで有名なゲルトナーだ。
そんなこいつにしてみたら、「若い」どころか「幼い」とすら形容可能な年齢で学院に首席入学を果たした私はパーフェクトに嫉妬に値する対象に違いない。
「年齢マウントなんか取って楽しいですか?」
「ッ……何を、この貴族崩れの性悪小娘がっ。だいたいあなたはもう学院を卒業した身でしょう。不法侵入ではなくて⁉︎」
「うっ」
そこを突かれると痛い。身分証を忘れてしまったのが仇になったね。
それにしてもこのゲルトナーとかいう女教師、性格歪んでるよなぁ。自分は名誉伯爵の学院長の姪っ子という恵まれた身分でありながら、親戚には世襲されない「名誉」伯爵という準貴族であることただ一点をコンプレックスに感じて、貴族階級出身の生徒をひたすらいびり倒すんだから。
ぶっちゃけ長い歴史以外に誇るものの何も無いフェルゼンシュタイン男爵家なんて、新興のゲルトナー家に比べたら資産規模でも社交界への影響力でもよっぽど劣ってるんだけどね。それでも何もかも、すべての分野において周りの人間より上じゃなきゃ気が済まないゲルトナーの奴にとっては、貴族の中では最下級の男爵家ですら嫉妬と怨嗟の対象なんだろう。
なんというか、人生経験がまだ一六年しかない小娘の私からしても、つまらない人生だ。
「貴族に対してその言葉遣いは不敬罪ですよ、ゲルトナー先生」
「アカデミーは独立しているの! 公権力を笠に着ようったって無駄よ」
「私はもう学院を卒業した身なので、アカデミアの一員ではないんですがね」
「……〜〜っ、ああ言えばこう言う! 減らず口が達者なこと!」
口喧嘩で勝てないからって、すぐそうやって上から目線で貶そうとするんだから。言っちゃ悪いけど、コネ就職のあなたとは頭の出来からして違うんだから、私とまともに議論して勝てると思わないでほしい。
ま、こんなの議論ですらないんだけどね。言われたから言い返してるだけの、ただの暇潰し。やられっぱなしは性に合わないからやり返してるだけ。私から仕掛けたことなんて、多分数えるくらいしかないと思うよ(無いとは言わない)。
「それより、こんなところで元生徒相手に油売ってていいんですか? ただでさえコネ就職だのなんだの言われてるんだから、ちゃんと働いてるとこ同僚に見せなきゃハブられますよ」
「失礼なガキね! 言われなくてもしっかり働いていてよ!」
いい加減相手をするのが面倒になってきたので適当にあしらったら、一番言われたくないだろう事を言われたゲルトナーが憤慨して去っていった。
後に残されたのは、呆気に取られたリアちゃんと教務課の職員さんだ。
「あのゲルトナー先生が……言い負かされてます……」
「信じられないわ……」
あの様子じゃ、他の職員にも当たり散らかすだろうなぁ。同僚の皆様、お疲れ様です。
「フェルゼンシュタインさん、流石ね」
「まあ四年もいびり続けられたら、多少は対応も上手くなりますよ」
去年新しく入ったばかりの職員さんは、まだゲルトナーの扱いに慣れてないんだろう。今もまたゲルトナーの奴が教務課の業務に色々と口出ししてたみたいだし、職員さん達みんな辟易としてたもんね。
「学院の負の面を見せる形になってしまってごめんなさいね。それで、追試験だったかしら? 受理するわね」
「あ、ありがとうございますっ」
自分は何も悪くないのに頭を下げてくれる職員さん。良い人や。この人はきっと幸せになる! 少なくとも私はそう祈ってる。
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