第7話 同い年

 一番弟子を獲得した私だけど、流石に生徒が一人だけでは生活はままならない。だからまずは生きていくのに必要な最低限の日銭と、開業のための資金を稼ぐために、冒険者として活動しなくちゃいけないのだ。


「それじゃあ、早速街の外に出てみよっか」

「はい。先生」


 無事にFランクの冒険者ライセンスの交付を受けることができたリアちゃんが、張り切って頷く。

 ちなみに私はBランクだ。本当ならAランクだったんだけど、ずっと活動してなかったから降格されちゃったみたい。世知辛い世の中だよね、まったく。


 そんなこんなで、私達は城壁で囲まれた皇都の外に出るべく、移動を開始する。

 てくてく。てくてくてく。

 歩くこと一時間。未だに皇都の街並みは途切れない。


「あの……まだなんですか?」

「まだだよ。皇都は広いからね」

「広すぎます〜……」


 まあ、聞くところによれば皇都は世界一の大都市らしいしね。一〇〇万人が住まうこの街は、端から端まで歩いたら日が暮れると言われている。だから街中なのに乗合馬車とか竜車タクシーみたいな交通手段が発達してて、正直それを使えばよかったと後悔する気持ちがないといえば嘘になるかな。


 とはいえ! 修行に我慢は付き物だ。たかが数キロ歩くだけで、面倒くさいとか言ってはいられないのだよ。


「リアちゃん、走ろう!」

「は、はい!」


 このペースで歩いてたら日が暮れてしまう。冒険者で稼ぐどころの話じゃない。

 それに修行に体力は必須だ。体力作りも兼ねて、二人でマラソン大会といこうじゃないの。



     ✳︎



「いい? リアちゃん。さっきは現状のままでもとりあえず魔法を発動するためのアドバイスをしたわけだけど……まずは、そもそもの出力を絞るところから始めないといけないんだよ」

「そうなんですね」


 場所は変わって城壁外。街道に沿って近場の森を目指しながら、私はリアちゃんに魔法の講義をしていた。


「うん。確かにリアちゃんの魔力の多さは武器になるんだけど、武器は使い方を身に付けなきゃ宝の持ち腐れなんだよ」


 さっきのライセンス試験では、これまでは持つだけで精一杯だった武器を無理やり振るったにすぎない。あれでは試験には合格できても、実戦では多分何の役にも立たないだろう。

 だからこうして金策がてら、魔法の実演と講義を兼ねてリアちゃんを連れてきていた。


「宝の持ち腐れ……わかってはいましたけど、そう言われるとやっぱり心に刺さるものがありますね」


 少し暗い表情で俯きながらそう言うリアちゃん。どことなく中性的な短めの髪が、目を覆い隠している。


「でもね、リアちゃん」

「はい」


 私は続けて言う。


「宝を持ってるってことは、物凄いアドバンテージなんだよ。そこは間違いなく自分の才能なんだから、誇っていいんだよ」

「誇って……はい。なんだか先生に言われると、自信が持てる気がします!」

「うん。客観的に自分の才能を自覚するのは悪いことじゃないからね」


 むしろ自分の強みすら理解できない人間のほうが、危ないと思うな。そんな人が他の人の長所を理解できるわけがないよね。


「でね。出力を絞るには、やっぱり生活魔法の練習から始めないといけないと思うんだ」

「生活魔法ですか……」


 再び暗い表情になるリアちゃん。これは……あれかな? 聞いた話だと、今まで生活魔法すらも暴走してろくに使えなかったって話だったし、トラウマスイッチが入っちゃった感じかな。


「子供とかおばあちゃんでも使えることが多い生活魔法なのに、わたしは使えたことがないんですよね……」


 本当、この子どうやって魔法学院の入試を突破したんだろう。自分で才能を見込んでおいて変な話だけど、リアちゃんは才能の塊ではあってもまだまだ原石でしかない。磨けば光る原石も、磨かなかったらただの石ころだ。現状のリアちゃんは、限りなく石ころに近い。

 まあ、だからこそ磨き甲斐があるってもんだけどね。リアちゃんは私が育てる。否、私にしか育てられないんだ。


「大丈夫。それは才能がないわけじゃないよ」

「そうなんですか?」

「うん」


 私は努めてリアちゃんがトラウマを克服できるように、自信を持てるような表現を探して言葉を紡ぐ。


「むしろ才能がありすぎて、でもその才能を活かす地盤が無かったから、リアちゃんは才能に翻弄されて魔法をうまく使えなかったんだと私は思うんだ」


 その才能っていうのは、要するに魔力量のことだ。魔法は技術ももちろん大事だけど、肝心の魔力が無かったら魔法は絶対に発動しない。魔力ってのはそれだけ基本的にして大前提のものなのだ。


「だから、リアちゃんにはしばらく生活魔法の練習と『魔弾』の練習の二つを継続してこなしてもらいたいと思います」

「生活魔法はわかりましたけど、『魔弾』もなんですか?」

「うん」


 怪訝そうな顔で訊ねてくるリアちゃん。はて。私、何か変なことを言ったかな?


「学院の先生はよく、基本もできていないのに勝手に応用に手を出すな……って怒ってますけど……」

「それ、誰?」

「ゲルトナー先生っていう、おばさんの先生です」

「あー……あいつか~。言いそうー……」

「知ってるんですか?」


 私が天を仰ぎながら頭痛を堪えていると、リアちゃんが驚いたように訊ねてきた。


「うん、まあ。知ってるも何も、魔法学院は私の母校だからね」

「えっ⁉ アマーリエ先生っていくつなんですか⁉」

「一六だよ」

「わたしと同い年じゃないですかぁ!」


 なんとびっくり。どうやらリアちゃんは私とタメだったみたいだ。奇遇だね。


「一六歳で、学院を卒業……飛び級ですか?」

「うん。こないだ卒業式があったばっかりだから、三月いっぱいはまだ一応在籍扱いだけどね」


 ということはリアちゃんは、次は三年生になるわけだね。一年生から二年生には、一応最低限の出席数さえあれば、所属クラスはともかくとして進級自体はできるけど、二年生から三年生になるためにはそれ相応の成績が必要だ。

 実技の成績が色々とヤバそうなリアちゃんは、三年生になれるか少し怪しいところがあるね。


「ふわぁ……やっぱり先生は凄いです……」


 キラキラした目で私のことを見つめてくるリアちゃんは、同い年だと判明しても敬語を改める様子はない。まあ、それも可愛いから良いんだけどね。




――――――――――――――――――――――――――

[あとがき]


 リアちゃんの成績と進級に関する描写を微修正しました(2023/06/22)。

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