第6話 不安定トリップ
「別に政府や国やMIBが隠蔽したわけじゃないですよ、それは逆効果なのは常識です」
「人に祟るのが祟りなら、それを誰も知らなければ祟りは生まれない」そんな考えもあったらしいが。
「不用意に無視すれば、祟りの厄災が大きくなる。何故なら祟りというのは、彼岸からの意思疎通の手段なのだから、それが叶わないとより過激化するのは当然ですよね」
意思疎通。怨み後悔悔いの発露。人を怨む人の遺志。
「ですが、ここは違います。幽霊屋敷っていうのは人に向けての祟りなんかじゃないんです」
「じゃあなんなの」
「幽霊屋敷の目的は生物と同じ、自分の種の繁栄。有り体にいうと繁殖です」
この子何言ってるんだ。
「まるでこの校舎が生き物みたいな」
「ええ、乾森学園は幽霊屋敷という意思を持つ生物です」
わたしがそうであるように。
少女にしか見えない幽霊屋敷はそう言った。
「誕生したての幽霊屋敷が真っ先に取るのは捕食者から隠れます」
捕食者。他の生物。他の幽霊屋敷。
「ものによってはその過程で事件そのものを忘れさせるなんてとんでもない改変を加えるやつもいて。ここはそういうタイプだったってことです」
無意識に働きかける神もどきのように。
「傾向として、生まれた時脆弱な奴ほど、その種の隠蔽に優れているそうで。それで残念ながら、そういった『屋敷』は成長すれば手が付けられなくなるんです。それこそプロの祓い師でも油断すれば取り込まれるほど強くなったり」
「そうして質の悪い奴に目をつけられた結果、わたしたちはここにいるわけです、游理さん」
「あ、やっと戻ってきた」
このままスルーされたらどうしようと思ってた。
「あなたはおそらく数時間前からこの学園に知覚され、先ほどこともあろうにわたしの中で喰われる寸前でした」
トーントーントーン。
さっきから校舎に響くこの音。
そうだ、これはこいつが現れる前から部屋の中に響いていた。
「あのままでは喰われた直後にあなたの意思は奪われ、ゆっくり消化されるだけでした。だから強引にわたしが割り込んでこの校舎に飛び込んだんです」
「割り込んだって、あの首ポキンはそれ!?」
「はい、手っ取り早く同期するには対象を仮死状態にする必要があったので」
それじゃあ。
「私は裏内さんに命を救われたってこと?」
「ええ、まあまだ完全に助かったって言えないのは情けない…って何やってんですか!?」
地面に頭をついて。
「ごめんなさい。また私こういうのに巻き込まれたらついうっかり全力攻撃が身に沁みついちゃってッて、本当にこんな性格だから実家を追い出されて…」
「ストーップ! なんかどんどん心が黒い沼みたいな所に沈んでますよ。情緒がゴンドラ並みに不安定ですねあなた!」
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