第1話 地縛霊改め邪神討伐
13年と数百年前それは降臨したらしい。
この地に巣くい、多くの人間を無意識レベルで操作した上で作り上げた巨大団地恋石団地13棟13号室という門を通して現世に生まれる。彼方からこの世界へ。彼方の法則でこの世界を塗りつぶすため。
邪な神もどきの遠大な計画は、たまたまその隣の14号室の地縛霊を払う依頼を受けた祓い師がさらに偶然門の鍵となる書物を起動したことで強制的に前倒しされ、さらに怪異魑魅魍魎を見た瞬間引き金を引く好戦性の塊と対悪霊対邪神装備をいつも持ち歩く人間がその場に居たことで阻止された。
つまり、化外の法則を世にまき散らそうとしていた邪神が、羽化直前に灰も残さず燃え尽きたのは奇跡的な不運としか言えないもので…
「いや、いい感じに報告してるけど君が原因でしょ、これ」
「所長~」
なんでそういうこと言うかな。
「巨大団地の一部屋の掃除が、なんで古の邪神討伐になってんの」
「さあ? 私は頼れる先輩のお仕事の手伝いをしていただけですので」
ピクン、と所長のこめかみが震えた。それでも表情はいつも通りの笑顔で、かつ目が全く笑ってない。正直すごく怖い。
できるならこの場からさっさと逃げたい!
「もう一度確認するよ、いいかな?」
はい、すみません。よくないこと考えてました。
「うっかり14号室と間違えて、隣の無人の13号室に入った君はこれを発見した」
机の上に13号室で私が見つけた「よいこのぬりえ絵本」を置く所長。
「さる魔導書をモチーフとして邪神の想念を刻み込んだ彼岸の存在の降臨に必須の本、『よーしゅちゃん』可愛さと気持ち悪さの境界を攻めまくった絵柄のこの本を、『何となく』ひろって開いた。」
「でもすぐ本棚に戻しましたよ」
「新人君の場合は、触れるだけで大ごとになるんだがね」
そう言って肩を竦める。
「その藪蛇体質は、誰もが認めてるんだから」
藪蛇体質
藪を突いて蛇、どころか鬼や竜まで出てくるような私の体質。
おかげで「家」から追い出された挙句、この職場に流れ着いたわけだけど。
「16件中15件」
冷静に振舞って威厳を保とうと、過去最大級に努力しているのがわかる顔だ…
「游理くんが入ってからこの『亜江島祓い所』が手掛けた仕事で、想定以上の大物に遭遇した回数だ」
残酷な事実を告げる。
「ちなみに予定通りに進んだ1回は、キミが病欠してた時ね」
…ぐぅの音も出ないなあ。
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