第7話✒そして世界は愛が溢れる


「あれ?このフクロウ、角がないですね」

(フクロウって角あったっけ?)

ザキは俺の体を使い、虹色のインクで勝手に角をつけ足した。

ザキによって描かれた虹色の羽角が輝くとイラストが立体になって浮かび上がった。

そして俺の体も浮き上がりイラストへと吸収されていく。

(え、なにに?どういう展開?)

体中が温かいなにかに包まれているような心地よい感覚。なんだか、急に……眠気が……。

「まって。ガラスペンさん。これを」

ザキの声が遠くで聞こえる。でも、もう返答が出来な……い……意識が……。


目を覚ますと俺は横浜西口付近の地面に横たわっていた。

「いってぇ。なんか体中すんげぇ痛いじゃん。てゆうかこれもしかして元の世界に……人間に、もどれた?」

目の前にはショーウィンドウ。そこに写る自分の姿。

「あーはいはい、はいはいはいはい。俺、そもそも人間じゃねぇじゃん。そんで、あれだ。ザキって……ザキじゃん」

なんだよもう。そういえば俺、なんでこんなところに倒れてんの?

あーそうだ、収録に行く途中、縄張りにはいっちゃったとかなんとかでカラスにいちゃもんつけられて、それで、えーっと……。

「あれ?なんだこれ」

手元に一通の封筒が落ちている。そういえばザキが最後になんか言ってたな。

ご丁寧にシーリングワックスで封されたそれをあけると手紙が入っていた。

“ガラスペンさんへ 長い間一緒に旅をしてくれてありがとう。

大変なことも沢山ありましたが、あなたとだから乗り越えることが出来ました。

あなたとの……略……あなたとあなたの大切な人の人生が彩あふれる尊いものでありますように”

マットな赤色のインクで書かれていた。読み終えると心臓の辺りがほわっと優しく包まれるような気持ちになる。

ザキィ……(涙

【プルルルルル】

感傷に浸る間もなくスマホが鳴る。ディスプレイに渡邊郁の文字。

体の痛みをおさえ、なんとか立ち上がる。

【テコテコテコテコテコ】

俺は歩きながら電話に出た。

「もしもーし」

(もしもしブッコロー?ちょっと間仁田さんが寝坊しちゃったみたいで収録二時間ずらしてもらえますか?)

久しぶりに聞く懐かしい声に安心したのか、不覚にも声が震えそうになったが、ぐっとこらえる。

「あーはいはい、了解しましたぁ。じゃあまたあとで」

平然を装い電話を切った。今日は間仁田さんとザキさんでなんか対決する日だっけか。

顔がにやついてしまう。ザキさんのことを思い浮かべると自然と足取りが早くなる。

しばらく歩いたところに見覚えのない店があった。

「こんなところに文房具店なんてあったっけ?」

店内をふと覗き込む。そこにうつりこんだものに足が止まる。

それは、きれいに棚に並んで店内を彩っていた。

俺の足はなにかに導かれるように店内へ。


随分と悩みすぎたなー。時計を見て焦る。

やばい。悩み過ぎて2時間も経っちゃったじゃんか、収録遅れちゃうよー。

「すみませーん」

声をかけると人の好さそうな女性店員がこちらを振り向く。

「ファーバーカステルのターコイズと、あと夜桜をください」


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転生したらガラスペンだった~陳腐な転生物語~ @aoi_time

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