10話

「朝ご飯を食べてー」

「そうですね、朝ご飯を食べることは一日元気に過ごすためにも大切なことです」


 おかわりまではできないものの、私の方もしっかり食べてきた。

 私はご飯派だけどどうやら先輩はパンの方を好むみたいだ。


「うん、昔から適当にしたことはないんだ……って、え!?」

「おはようございます、お母さんが入れてくれたので待っていました」


 これを求めていたわけで、朝から満足できてしまったことになる。


「その母さんは……そうか、今日は早いって言っていたからもういないのか」

「そもそも既に九時を過ぎていますからね、少し寝すぎかもしれません」

「ははは……冬休みというのもあって読書が捗りすぎちゃってね」

「なるほど、それならご飯を食べたら本屋さんに行きませんか? おすすめを教えてもらいたいのもありますし、泉先輩も新しい本に興味がありますよね?」


 いつも通り、先輩呼びをしてしまう前に気づけて変えられてよかった。

 こういう細かいところが大事だと思う、関係が変わったからには少なくとも三年間はこのままでいたいからこんなところで躓いている場合ではないのだ。


「わかった、じゃあすぐに食べるから待ってて」

「急がなくていいです、すぐに帰ることになったら一人で寂しいだけですから」

「嫌じゃなければ相手をさせてもらうよ」

「嫌なら待ちませんし、そもそも来ませんよ」


 一緒にいたいという気持ちが強く存在している、下手をすれば今日は別れたくないと言いたくなるぐらいには強いそれだ。

 でも、まだまだ出会ったばかりのうえに関係も変わったばかりだ、ただ手を繋ぐことや抱きしめることとは違うから気になってしまう。

 ちなみにそんな私を他所に「そっか、とにかく待っててね」と朝ご飯を食べ始めた先輩、じっと見ているのも違うから前みたいに窓の向こうに意識を向けていた。


「ふ、文緒」

「あ、そういえば呼び捨てにするように求めたんですよね」


 父と寿哉からしかそうされていなかったから驚いた……とまではいかなくても意識をもっていかれた。


「どうしました?」

「……やっぱり今日は家でも……いい?」

「欲しい本がないんですか? それならそれでも大丈夫ですよ」


 約束もしていなかったのに勝手に来たのはこちらだし、ある程度は先輩の自由にできる。

 それにお家で過ごしたいということであっても本については特に変わらないから問題はなかった、ゆっくりと読書をして過ごす一日もいいだろう。


「いや、それはあるんだけど……それよりも文緒と……うん」

「自分のしたいことだけをして帰るような人間ではないですけどね、でも、そういうことならわかりました」

「ほ、本当にわかってる?」

「私と過ごしたいということですよね? 私だって泉先輩と一緒にいたい――あ、そういうことですか」


 またあの顔をしていたからすぐにわかったけど……これが性差、なのだろうか?


「ふふ、過激なことでなければ構いませんよ」

「そ、そんなことはしないよ」

「え、そんなことってどういうことですか?」

「い、意地悪をしないでもらいたい……」

「ふふ、ごめんなさい」


 それなら急にご両親が帰ってきて慌てる! などということにならないように食べ終えたらお部屋に移動させてもらうことにした。

 何故かやたらと急いで食べ始めたから再度、ゆっくりでいいですよと言っておいた。


「これ、面白いですね」

「う、うん、そうだね」


 ちなみに本については知らない内容の物が沢山あって想像通り、楽しめたのだった。

 流石に放置しすぎて涙目になったぐらいでやめておいたけれどね。

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