人間ではなくキャラなのだ
カクヨムユーザーの
『外身は女だけれど中身は男』
実際の言い方は違うけれど、要約するとこうなる。別に一部で人気のあるラノベ属性的設定の話ではない。
簡単に敷衍すると、『男性作者が描く女性キャラクターは、得てして現実の女とは掛け離れている』となる。
これは「テンプレで書いているだけですけど」と言い張る作者には寧ろ関係のない事で、「現実を舞台に現実の人間を描いている」と自負する作者こそが胸に手を当てるべき事柄。『男に女が描けるか』『女に男が描けるか』という問題であり、どちらの性でもないと自認する人ならば縦横無尽に色んな性を描き分けられる、というような単純な話でもないと思う。
そして、『女(男)が描けていない』は『都合の良い女(男)しか描けない』とほぼ同義と言って良い筈。
正しい例かどうかは分からないけれど、飽くまでもフィクション内の話として――
主人公の男性が職場でエロサイトを見ていたとする。離席して戻ると、パソコンに「就業中はダメ絶対、エロオヤジ(笑)」という付箋が貼られている。予め読者には、隣席の女性社員が貼った事が開示されている。
細かい設定は省くけれど、二人の関係性は飽くまでも同僚で、殊更に他人行儀でも親密でもないとする。
――という話があったとして、これを書くのは圧倒的に男性作者だと思う。何なら、女性社員は若くて色白で美人系で、普段は感情を表さないけれど、実は主人公に気があって――なんて設定かも知れない。
「こういうのイイ!」と思った人は、最初のテーマ『外身は女だけれど中身は男』に陥ると思われる。
現実では相手に気があってもなくてもこんな行動は取らない。無視するか、または上司に報告するだろう。問題があると思えばきちんと対処するし、知った事ではないと思えば無視。万が一気があっても昨今だったら『蛙化』するかも知れない。
勿論、この女性が特異で、この後どんどん可笑しな行動をするという物語ならば解るが、「何十人、何百人かに一人、実際にこういう女が居るかも」という希望的観測が執筆のモチベーションを支えているとしたら、それは特に某小説ジャンルの隆盛と深くシンクロしているのだろう。
これは作品の良し悪しではなく、『性別を超えて人間を描く事は可能か』という大前提的な話かと思う。
如何にも都合の良い『エモい対象』が出て来る作品を目の当たりにすると、やれやれと思いつつ、自分もそんな話を書いているのかも知れない、とつい気になってしまう。
そもそも近年は各ジャンルが島宇宙化し過ぎてしまい、もうほとんどフェティシズム的な「こんな設定、展開のが読みたい」と書き手も読み手も絶海の孤島でワイワイやっているような状況で、近隣諸島の事など眼中にないだろう。
昨今の読者は『予め読みたいものが決まっている』とも聞く。自主企画の中にも細かな設定や展開、属性を限定した要望が多くなっているように思える(或いは、反動なのか、何でもOKというざっくり系)。
「テンプレなんか糞」という言説はちらほら目にするが、「テンプレなんか糞と言ってる奴が糞」という言説を見た憶えがない。
そもそもが、人間(+物語)を描きたいのではなく、キャラ(+設定)が好きなだけなのだ。
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