第3話 メイテリアの町
そこはだだっ広い砂地で、マコトが入っていたのと同じ巣箱がたくさん置いてあった。
砂地はグルリと松らしい木の林に囲まれており。松林を抜けるとすぐそこがシーリャの住む町なのだという。
「そういや、ウサギの親ってのは何をしてるんだい? 石屋におつかいっていうくらいだから、何か作ってる人なのか?」
歩きながら、世間話がてらにシーリャが訊ねた。
「えっと。物作りじゃなくて、研ぎ師をやってます。石屋さんでは、砥石を買ってるんで」
「……トギシ?」
「知りませんか? こう、切れなくなった刀とか包丁とか刃物を、磨いてキレイにする仕事、なんですけど」
「そんな仕事がねぇ。普通、ダメになった物は新しいものを買うもんだけど」
「うん、まあ。モノによっては、その方が安いですから」
シーリャの反応は、マコトとしても慣れたものだった。
研ぎ師というのは、現代日本でも数を減らしている職業である。それこそ、道具なんて使い捨てるのが当たり前として、研ぎなどのメンテナンスには考えも至らない人だって大勢いた。
ただ今回については、そういうのとは根っこから違うものだと、マコトが知るのはもう少し後になってのことだ。
「見えてきたよ。あれがメイテリアの町だ」
シーリャが前方を指さしたが、そこに広がっていたのはマコトの想像する街並みとはだいぶ違うものだった。
まるで型から抜いたようにそっくりそのまま、真四角の岩で造られた家が、きちっと行儀良く並んでいる。ほとんどはサイコロひとつぶんで、たまに何個も組み合わせた大きな建物も交じっていた。道路もアスファルトなどではなく石畳と、どこまでも岩石づくしの町だ。
「そんなにキョロキョロして。こんな田舎、珍しいもんでもないだろうに」
シーリャはそう言って笑うが、珍しいものなら建物の形だけでなく、いくらでもあった。
たとえば町の中ではクルマはおろか、自転車すら走っていない。街灯なども設置されておらず、歩きスマホのひとりもいない。もちろん、マコトの常識で決めつけるべきではないが、多くの人が行き来する賑やかさに反して妙に現代らしさが欠けているのだ。
そして、何よりも不思議なことは、
「**。********?」
「*****。*******!」
なんて言った?
道行く人々の口から出てくるものが、まるで意味をなさない雑音と言ってもいいようなものなのだ。
最初は、それが言葉だということすらわからなかった。次に聞き間違いかと疑って、しかしどんなに注意して聞いてもまったく理解ができない。
いったい、彼らは何語を話しているのだろう。
そしてシーリャは、どうして何もおかしいと感じている様子がないのだろう。
「――おい、シーリャ!」
首をひねっていると、野太い声が耳に飛び込んできた。
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