第8話 ハラスメント

もしも彼女を見る事が可能であるなら、ミニスカートにパーカーを羽織った可愛い女子高生と見間違えるだろう…。


しかし、その目は老獪で口元には下卑た笑いを浮かべていた…。


人の行き交う交差点の信号機の上に、誰にも気づかれず、今日も腰掛け、獲物を待つ…。


欺き騙し、人の心を惑わして、狂わせ人を堕として糧とする…。



「畜生!部長のせいだ!俺の人生は滅茶苦茶だ!」



彼女はニヤリと笑いを浮かべ、吐息をフッと一回吐いた…。


吐いた吐息は赤く小さな、茎と葉に鋭いトゲを持つアザミの花に姿を変えた…。


アザミの花はゆらゆらフラフラ、男の身体にトゲを刺し、男の身体に融けて消えた…。


それと同時に彼女も消えた…。



男は大学新卒で、ある大手商社へ入社した。


配属も決まり、自分の未来へ意気込んでいた。


「おはようございます!」


「あっ!君、ちょっと来て」


男は出勤するや、部長に呼ばれた。


部長は三十路ながら、独身で美貌のキャリアウーマンである。


「君はだいぶ仕事を覚えたね…見込みあるわよ」


「ありがとうございます」


「で、今日なんだけど、残業をお願い…」


男は一瞬、恋人との約束が頭を過ぎったが、思い直し、残業を快諾した…。



同僚の先輩社員たちが、ため息をついた…。


「あぁ…今度はあいつか…可哀想に…」



男は頑張り残業をこなす…。


「お疲れ様…」


部長がコーヒーの差し入れを持って来る…。


「部長…いらしたんですか?」


「私も仕事で残ったのよ…はい、コーヒー…」


「あっ!ありがとうございます」


「もう終わりよね?このあと食事に行かない?」


部長の誘いである…。


今後も含めて断わる理由が無い…。


今夜は恋人には勘弁して貰おうと、男は部長について行った…。


ワインを飲まされ、酔ったのか…気づくとベッドに横たわっていた…。


男は裸にされ、隣には部長が裸で横になっていた…。


「あーぁ…力尽くで乱暴されちゃった…」


「え?そんな…」


「写真もあるわよ」


部長は裸のふたりを自撮りしていた…。


「もう、君には言いなりになって貰うわよ…」


「僕には恋人がいます…酔っていても部長を…ありえません!」


「なら、会社へ言ったらいいわ…会社は君を取るか、私を取るかよく考えてね」


「勘弁してください…」


「それは君次第よ…」


部長は妖しく微笑んだ…。



性に対して貪欲な部長は、男に命令し、毎夜の如く男に奉仕させる…。


男に首輪を嵌め、背や尻に鞭を打ち、足の指を舐めさせる…。


部長は男のその姿を写真に収め、男のスマホと共有した…。


「写真を削除したらどうなるか判っているだろうな?お前は自分の姿を見て、卑しい男だと認識をしろ!」


「こんなこと…もう勘弁して下さい…」


「家畜のクセに生意気だな!言うこと聞けば、私とセックス出来るんだぞ!」


「恋人に疑われています…本当に許して下さい」


「いいよ…なら、お前を懲戒免職にしてやるよ…退職金も手当て貰えず、無職になるんだな…」


「それは…許してください…お願いします…」


男は涙を流し、懇願する…。


「なら、私を逝かせなさい!」


男は必死で舌を使い、腰を動かす…。


「下手くそ!」


部長は男の顔を足蹴にする…。


「恋人を想うからちゃんと奉仕出来ないんだな」


部長は男のスマホから、強引に男の恋人へ写真を送った…。


男と部長がまぐわう写真を送った…。



「もういいや…お前は飽きた…」



男は恋人に去られ、部長の圧力で退職を言い渡され、職も失った…。




怒りと絶望で横浜の交差点に差し掛かると、何故だか頭の中に囁やく声が聞こえてきた…。

 

囁やく声に疑いも持たず、男は囁やく声に答えていた…。



お前は部長の快楽に弄ばれた…。


お前は全てを失い悔しくないのか?


「悔しい…部長のせいだ…僕は破滅だ…」



そうだろ?ならば部長も破滅させろ…。


「でもどうやって?」


お前は馬鹿か?部長に飼育され本当に家畜になったのか?


「違う!僕は家畜なんかじゃない!」


一番の破滅を味あわせてやれよ…。


部長をなぶり殺せばいい…。


あいつを殺してやればいい…。


「そうだ…部長は殺した方がいい…殺す…殺す…殺す…」

 

男は狂い部長を怨み、殺人鬼に変わっていった…。



男はまだ、夜のとばりが降りる前に、部長の部屋へ忍びこんだ…。


勝手知ったる部長の寝室…。


ベッドの下へ潜り込み、部長の帰りを待っていた…。


部長が帰り、スーツを脱ぐと男の後釜か、次の奴隷にラインする…。


ワインを二本、買って来なさい…。


スマホを閉じると下着姿でベッドに腰を掛けた…。


男は這い出し部長の背後に立つ…。


そして部長にスタンガンを当てた…。


「ぎゃ!」


部長は驚き、しばらく動けない…。


男はその間に、自分が以前使われていた、手枷足枷で部長をベッドに固定させる…。


「お前!ふざけるな!外せ!」


「部長…久しぶり…いくら叫んでも大丈夫ですよ…ここは、防音ですからね…」


男はケタケタと狂い笑いを部長へ投げる…。


男は鞭を持ち、部長の腹へ振り下ろす…。


バシッ!バシッ!


部長の腹は赤く跡が残る…。


「これ、邪魔だね…」


男は部長のブラとショーツをハサミで切り裂く…。


首輪を嵌め、首輪についた鎖を引く…。


男は下着を脱いで、手にはハサミを握り、いきり立ついちもつを部長の口へ押し付けた…。


「判ってるな?少しでも歯をたてたら、お前の耳を切り落とすからな…」


無理矢理上げた部長の口へ押し込むが、喉に詰まらせ部長は咳き込む…。


「下手くそ!」


男は容赦なく部長の頬へ平手を食らわす…。


「お願い…許して…」


「はぁ~??許してだと〜?お前ふざけてんの?お仕置きだな…」


男は部長の乳首を摘むとパチンバチンと乳首をハサミで切り取る…。


「ぎゃー!」


「うるさいなぁ」


男はハサミを部長口へ差し入れて、部長の舌を縦に切った…。


「あはは…スプリットタンにしてやった…あはは」


そう言いながら、枕元にあったマグカップの底で部長の前歯を強く叩く…。


前歯は折れて血を吐いた…。


「ほら、フェラ上手にしてやったよ」


男はケタケタ笑った…。


「じゃぁ、次はここかな?」


部長が吐いた血を男は男根に塗りたくり、部長の女陰に突き刺した…。


「うーん、気持ち良くない…改造しようか?何か言えよ!」


部長はすでに虫の息…。


男は部長の膣へ肛門へ、部長の穴という穴へと何度も何度もハサミを突き刺す…。


息が絶えても何度も突き刺す…。


ケタケタ…ケタケタ…。


その時、ワインを持った男が入って来た…。


振り返り、狂った男は新たな男に殴りかかる…。


新たな男は夢中で避けて、手に持つワインのボトルの底で、狂った男の頭を殴る…。


まだ笑い続ける狂った男の頭を、ボトルが割れるまで恐怖心から殴り続けた…。


狂った男は頭が割れて、脳が潰れて目を閉じた…。


我に返った新たな男は、踵を返すと一目散に逃げて行った…。




あはは…あはは…。


素敵!素敵!


面白かったー!



彼女は次の獲物を求め、またあの交差点の信号機の上に腰掛けた…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る