第42話 機内にて

ダニエル・J・コーベットと機内で相席になり、お互い、喋りずらく沈黙が流れる。

飛行機が離陸し、デーモスクラトス、アルバート区へ向かっていく。

長い沈黙を破ったのは、コーベットだった。


「スカーフェイス…いや、ガーベラ・バルベラ、お前に聞きたい事がある」


こちらに顔を向け、真剣な表情で凄みながらも、その眼には、こちらと対話する真摯さが感じとれた。


「何だよ…」


「お前は、ユースティティアをどうしたい? 」

その問いに俺も胸に秘めてる思いをぶち撒ける。


「組織の解体を望んでいる、いや、解体する、俺が組織のトップになってな」


「それでは、何年かかる? それまで奴らの悪行を見過ごすつもりか! 」


「2年だ! 奴等の空いてる玉座に座るまでの期間は、できる限り、悪行、悪徳もさせないつもりだ! 」


それを受け、コーベットは、言う。


「それでは、遅い! 奴らの勢力は今でも着々と進んでいる…できる限りと言ったな、それでも、お前の監視の目を掻い潜り、奴等は法を破り、やりたい放題やるぞ!」


「だが、警察…権力も政治家も、今まで何が出来た? 法の下で何人の人の不幸を見過ごしてきたか、マークだってそうだ」


「だからだ! 今から言う事をちゃんと聞け…お前…俺と組め」


「お前とだと? 」


突然の提案に俺は困惑した、だが…


「一、警察官のお前と組んで、何が出来る? 」


俺は外部からの介入では、ユースティティアは、壊滅出来ない…だから、やりたくもない、ユースティティアの内部派閥の代表なんて事を選んだのに、今更、警察と組んで、何が出来る?

妹のアザレア派はともかく、ロジャー・セラノは、あの欲の塊である俗物をどうするか、ヤツに心酔してる奴だっているだろう、政治家共との繋がりだって、あるし、それをどう崩すか、今まで頭を抱え込んでいるのに、同じ事を繰り返すが、何が出来る。


「お前の懸念、『お前と組んで何が出来る』と思ってるな、だがな、ユースティティアを

に対して苦い思いをしてるのは、お前や俺だけではない…無論、政治家の中にもいる、今回、飛行機に乗ってまで、会うのは、だ、彼らに力を借りて、圧力をかけてた政治家共に、汚職の追求をしてもらう」


「出来るのか? そんな事が! 」


「政治家だけではない、検察や長年、ユースティティアを追っかけてるジャーナリストもいる、その人達と…お前のいる立場…で奴等、ユースティティアの暗部を白日の元に晒すんだ」


正直、悪い提案ではないと、俺は思った。

コーベットとは試合で拳を交え、悪い印象もない。

まあ、親友殺しの汚名を被せられそうになった時は、腹がたったがな。

どうする、この提案に乗るか…

俺は、あることを聞く。


「お前はいいが、今まで警察の中にも、ユースティティアにシンパシーを感じてる奴もいるだろう、勿論、検察の中にでもだ、そういった、連中はどうするんだ、お前は潰されないか? 」


「具体的には、答えられないが、反ユースティティア派の連中と口裏合わせて、そいつ等も、まとめて叩く、それは証拠と合わせてな、なーに、暗殺や揚げ足取りで罪を着せられるのが、怖くて、警官なんてやってられんよ」


「そうか、そうだな…分かった、あんたの口車に乗ってやる、やってやろうじゃないか」


コーベットは手を差し出し握手を求めたが、俺は拒否した。


「しないか、まあ互いの利害の一致ということだな、今回は」


「ああ、あんたは悪い人間じゃない、だが俺とは馬が合わんな気がする、悪く思わないでくれ…あと…決まったあとに言うのも、あれだが…アザレア・ガルベア、俺の腹違い妹だが、彼女を…」


「ああ、あの女か…」


「司法取引で捕らえないでくれ」


俺の一言で場に緊張感が出る。

奴からしたら、憎き組織の派閥の代表の一人だろうからな。


「お前は、司法取引で捕まえなくても、いいかもしれんが、あの女は危険だ、組織拡大にも噛んでいる」


「ああ、彼女は歪んでいる、だから…俺の元じゃなくていい、俺は立件されようが逮捕されようがいい、組織解体後の人生でまっとうな価値観を育んでほしいんだ」


「何故、そこまで肩入れする? あの女とは、今まで接点なく生きて来たんだろ、他人も同然じゃないか!」


コーベットの言う事は正しい、だが、俺にはある人の言葉が脳裏をよぎる。


【いいか、スカーフェイス…国や権力が牙を向いた時、お前やお前が大事だと思う者は守ってやれ、家族や親しい者とか、それは、その人の人権を守ってやる事に繋がるから…たとえ罪を侵した者でもあるんだ、勿論、お前や私にもある権利だ、相手が国や権力側だったとしても、不可侵な概念だ】


当時の俺には、難しくて分からなったが、今、どうするか考えた結果、過去のこの言葉が今の俺を動かしていた。


「彼女は罪を侵してる、あんたの言う通りさ、だが、あのユースティティアで育まれた歪んだ思想から、来てると俺はそう思う、アザレアは、組織解体後、ダマトジムに預けようと思う、そこで、真っ当な社会の中で人間として、生きてほしいんだ」


コーベットは黙った、いや、考えてるようだった。

少し間を置き、コーベットは「お前の言う司法取引が、お前以外でも適用されるか、分からん、だが、適用されるならお前の言う通りになるだろう」


「そうか…」


「だが、勘違いするな、俺はお前の妹の罪を免除することに同意したわけではないからな!」


「ああ、それでいい、お前は法の下の番人だからな」


これでいい、コーベットとは、主義主張も思想も違う、だが、今回は、ユースティティアの壊滅の為に手を組んだのだから。


※※※

四時間後…

飛行機は、デーもクラトス、アルバート区の空港に着いた。

そして、空港のロビーに行くと、俺達を待ちかねたように声をかけてくる人物がいた。


「スカーフェイス殿、コーベット殿、待っておりました、私はデーモクラトス、野党議員、ロバート・アルゲリッチの秘書をやっております、ジャン・マルケスと申します、さささ、車も用意しております、貴方方を待っているので急ぎましょう」


スーツに俺と同じ黒人のその男は、俺達を車へと案内し、乗せて、「それでは、ミソネタ区まで行くので、お二人は疲れてるでしょう 1時間程で着くので、寝ててもいいですよ」


ジャンはそう言い、車を発進させた。

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