第7話 ボクのお友達
築40年を超えるボロアパート、ワンフロアだけどトイレとバスルームが別な物件にボクは住んでいる。外装はボロっちいけど、中は数年前にリフォームしたから意外と綺麗なのがお気に入りです。
有難い事に大学の費用と家賃とか諸々の費用は両親が出してくれているので、お小遣い稼ぎに喫茶店でアルバイトをして生活が出来ているのである。
でもよく考えたら全部ボクが当てた宝くじのお金のような気がするけど今は忘れる事にしよう。目の前には不思議なダンジョンから持ち帰ったと思われる金庫があるのだから。
「くっ、これ重すぎでしょっ……ぐぬぬっ」
非力なボクはベッドの枕元に鎮座された持ち帰り金庫をテーブルの上に移動させた。昨日の明晰夢が本物だとしたら、今のボクは昨日よりも『力』が1上がっているはずなのだ。1ってどれくらいの効果があるんだろね?
何とかテーブルの上に移動させた黒い金庫、A4サイズのノートがすっぽりと入りそうな小型の段ボール箱くらいの大きさだけどやけに重かった。
「どうやって開けるんだろう……?」
確か夢の中で見た金庫は入口が開いたままだった。そこに剣を入れたところ自動でパカンと扉が閉まってロックされたような気がする。
金庫の扉を見てみると液晶画面があった。そして『暗証番号8桁を入力してください』という文字があるのだ。
「暗証番号……?」
暗証番号なんて設定した記憶がない。もしかしたら無意識に設定していたのか……? 8桁と言ったら自分の生年月日を入れる気がした。
タッチパネルを操作してポチポチと入力しました。それにしてもこれ、どうやって液晶に電源を供給しているのかな?
『暗証番号が違います。やり直して下さい』
「……」
0~9の数字で8桁の暗証番号を設定した時、その組み合わせは何通りありますか? 答えはいっぱいです。はい、賢さが5のボクには分かりません。
こうなったらボクが設定しそうな暗証番号をどんどん入力してみよう。ダメなら諦める!
『自分の生年月日の逆』や『両親の生年月日』、『今日の日付』とか思い付く限り入力してみましたがダメでした。
もう面倒くさいので適当に入力してみよう。07214545……っと。ふふ、こんなのある訳ないよね♪
『暗証番号を認識しました。またのご利用をお待ちしております』
「…………マジで?」
ダンジョンでモンスターを倒した時のように金庫が霧になって消えたと思ったら、テーブルの上には黄金色に輝く剣が残った。
まだ夢でも見ているのかと思って頬を抓って見たけど痛みを感じた。どうやらこれは現実のようだ。
剣はダンジョンで一度装備したアレです。金の剣という名の刃引きされたショートソードだ。西洋チックなデザインだけど持ち手の部分まで金で出来ているのだった。
「……おもっ、こんなの片手で振り回せないよ」
刃引きされているのを良い事に両手で持ってみた。これ5kg以上ありそうだぞ。夢の中では軽々しく振り回せていたけどボクには到底出来そうになかった。
それにしてもこれはどうしたら良いのだろうか。これが本物の金だとした場合、質屋に持って行ったところで警察の厄介になるに違いない。だって金とかって保有量とか管理されてるんでしょ? しかも金の延べ棒とかじゃなくて如何にも怪しい金の剣ですよ。
そんな怪しいものを学生のボクが換金に行ったら出処を疑われるに違いない。『朝起きたら、夢の中でゲットした剣があったんですー』…………ふむ、次の日の一面ニュースになる予感。
「さて、ご飯食べて学校行こうかなっ!」
とりあえず怪しいアイテムを世に出す事は出来ないので狭い押入れに入れておきました。
謎はいっぱい残っているけど、悩んでいても始まらないのである。学校行ってお勉強してこよう。
◇
埼玉と東京の県境に位置する私立大学、ボクのような非インテリでも入れたこの大学で経済について学んでいた。数学が得意じゃなかったので文系かなーって適当に選んだけど、経済学って数学も大事だと入ってから分かったのだ。
今日まで難しい授業に何とかついていけているのも、ボクのお友達であるホッシーのお陰である。
「あーやっと終わったな、ユウ。早く学食いこうぜー」
「おっけー!」
ボクの唯一のお友達と言っても過言ではないホッシー、星野という苗字だからホッシーと呼ぶ彼はとても良い奴だった。
中肉中背だけど背筋を伸ばして綺麗な歩き方をするホッシー、少し長い黒髪がサラサラしてイケメンなのである。
このアパートに越してきた時、偶然お隣の部屋の住人がホッシーだったのだ。彼は実家が栃木にあるらしく、初めての一人暮らし仲間という事で意気投合したのである。
彼は最初、少しだけ栃木訛りだったけどいつの間にか治っていた。そして何より、こんなボクとも仲良くしてくれる性格もイケメンな良い奴だった。
ボクと違って賢さが高いと思われるホッシーさん、家庭教師のバイトをしているからか教えるのが凄く上手いのである。いつも助かってますー。
「うわ、混んでるな。んー、今日はBランチだな」
「ボクはうどんにしようかなー」
うちの大学は学食にも力を入れているらしく、安くて美味しい豊富なメニューで学生たちを支えてくれているのだ。中には朝昼晩と3食をここで食べる人もいるらしい。
丁度二人掛けの席を見つけたボク達は向かい合って座り、モグモグと美味しくお昼ご飯を頂きます。
ちなみに、ボクが食べているのが肉うどんでホッシーのBランチはハンバーグ定食だった。美味しそうに頬張るホッシーを見ていたらBランチにすれば良かったと後悔してきた。
悔しいからお肉をハンバーグと思ってモグモグと食べながら世間話をしていたところ、ホッシーがボクの顔を見つめていた。
「ん? ボクの顔に何かある?」
「いや、何か昨日と雰囲気が違うような気がしてな……」
「えっ、分かる!?」
いくらホッシーがイケメンだと言っても男に見つめられても嬉しくない。でも今日だけは特別だ。あの夢が本当だとしたら今日のボクは昨日よりも魅力が2も高いのだ! ちなみに、ボクの
夢の世界から金庫を持ち帰った事で、ボクはあの夢がラノベで言うところの『ボクだけが入れる隠しダンジョン』である事を確信していた。あれ、でもボク以外にも冒険者が居るって言っていたからちょっと違うのか。まあいいか!
「ああ、シャンプー変えたんだろ? 昨日より髪の艶が良いぞ」
「あっ、うん……」
魅力が2上がった事で髪質が良くなったようです……。いや待てよ、ちょっとガッカリしちゃったけどこれは凄い事じゃないか。このままレベルを上げて魅力を増やせばモテモテ男の出来上がりだぞ!
そんな事を考えながらうどんをモキュモキュとうどんを食べていたところ、学食の入口の方が賑やかになった。
「あー、上井先輩達だな」
「むむっ?」
ホッシーに釣られて入口を見れば、パリピな先輩とミキちゃんが居た。そしてボクの天敵、清楚系色白ビッチギャルのお姉さんまで居たのだった。
どうやら清楚系色白ビッチギャルに注目が集まっているらしい。確かにあの黄金色に輝く金髪は素敵だった。めっちゃ背も高いしスタイルも抜群なのだ。天敵な彼女だけどクンカクンカしたいです。
「あの女性知ってるか? 今人気のモデル
「はえー、すっごい」
実はボクのお友達であるホッシーは顔が広い。色んなサークルを掛け持ちしてる彼はそのイケメンパワーで先輩達と仲良くなり、色々な情報を入手してくる情報屋さんなのである。過去問とかボクに無償で提供してくれるイケメンです。惚れそうだけど男は無理です。ごめんよ。
あの清楚系色白ビッチギャルなお姉さんは芸能人だったのか。確かにスタイル抜群だしキラキラと輝いている。というかボクはそんな凄い人にフラれたのか。会った瞬間にフラれたけど、芸能人に話し掛けられたと思えばご褒美なのか? アイドルと直接、それも数秒話すだけでもCDとかいっぱい買わないといけない昨今において、タダで話し掛けて貰えたのだ。役得ってやつか!
でもそんな芸能人と仲良しなパリピは何者なのだろうか。奴はただのパリピじゃなくてエリートなのか? ボクはうどんをモグモグしながらどうでも良い事を考えていた。
そう言えばギルマスが気になる事を言っていた。何やらボク以外にもダンジョン攻略者がいるようなセリフだった。
「ねえホッシー、不思議なダンジョンって知ってる?」
「不思議なダンジョン…………それはゲームの話か? それともあの都市伝説の方?」
思い付きで聞いてみただけなのにホッシーは色んな情報を持っているようだ。さすが情報屋さんですね。
「もちろんゲームだけど、都市伝説? 何それ詳しくー」
「今ネットの掲示板で密かに話題になってるんだ。何でも夜寝ると夢の世界に入り込めるって設定らしい。十中八九嘘だろうけど、ダンジョンの話で盛り上がってるらしいぜ。詳しく見てないけど、後でURL送ってやるよ」
「あざっす! それよりホッシー、お口にソースついてるよ?」
「うわっ、マジかー」
話してくれたホッシーの顔は真剣だった。口の端にデミグラスソースが付いているけど、顔は真剣そのものだったのだ。つまりその掲示板を見たらボクとは違う冒険者との交流があるのかもしれない。
今日はバイトがあるから終わってから確認だな。
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