②
第4話
「--てなことがあったわけだけど、高山田はどう思う?」
私は隣に座っている男子、高山田春陽に訊いた。
高山田は不機嫌に
「それをぼくに訊いてどうするんです?」
と言った。
放課後の図書室。図書カウンターに並ぶ二人。
入学して運悪くクジ引きで当たってしまった図書委員。クラスの取りまとめをしなければならない学級委員長や副委員長、週一で早朝登校をしなければならない風紀委員に比べればマジではあるけど、それでも図書委員の仕事はそこそこ多い。
月一回の新刊の棚卸の他に、約二ヶ月に一度一週間の図書館当番の日がある。
今週はちょうどその当番の週で、私たち二人は夕方の5時までこの図書カウンターに座っていなければならなかった。
私の通うこの私立戸園高校はそこそこ歴史のある進学校だ。校舎は増築に増築を重ねた迷路のようになっているが、この図書室--いや図書館と呼んだ方がいいだろうか--はやはり後年になってから建て増しされたようで、学校の敷地の隅にポツンとひとつ別館というかたあで存在している。
3年前に学校から徒歩10分の距離に蔵書量の多い県立図書館が出来たこともあり、こんな学校のすみっこにある図書室を利用する生徒はほとんどいない。試験の前に少しだけ生徒は増えるみたいだが、それでも殆どは県立図書館を利用するらしく、もしかしたらこの図書室の存在自体多くの生徒は知らないのかもしれなかった。
今も図書室にいるのは私と高山田と、あとはテーブルに向かって何やらひたすらにノートを書き写しているガリ勉臭い男子生徒の三人だけだ。
授業が終わってからの約一時間半。一人だったらスマホをいじったりしているうちにあっという間に過ぎてしまう時間だろう。
でも、今は一人じゃない。
隣に無愛想で無口な高山田がいる。一人だとなんともない沈黙が妙に重苦しく感じる。
私は高山田の突き放したような解答に言葉を詰まらせた。
確かにそうだ。突然ロクに話したこともないような女子から、恋愛の相談なのかなんなのかよくわからない話をされても「だから何?」と言うわけだ。きっと私が高山田でも同じような反応をすると思う。
また二人の間に沈黙が流れて、図書室の中には男子生徒のカリカリと言う鉛筆の音だけが響く。
私は手持ち無沙汰で高山田の横顔をジッと見つめた。
高山田はよくわからない男子だ。
教室ではいつも一人で本を読んでいる。たまに男子と一言二言会話しているのを見るが、特に親しい人間がいる風でもなく基本はぼっちだ。長い前髪が顔の半分を覆っていて更にメガネをかけているので表情が全く見えない。陰気で何を考えているのかわからないぼっちなのに、いじめみたいなことが一切ないのは彼の身長が高くてそれなりにガタイがいいからかもしれない(おそらく片山先輩と同じくらいの身長はある)。
でもこうやってマジマジと見ると、鼻筋から顎のラインにかけて悪くないなと思う。通った鼻筋に無駄肉のない顎。口許は綺麗だ。よっぽど目が離れてるとか目がくっついてるとかじゃなきゃ、たぶん前髪の下の顔もそこまで悪くないのではないかと予想された。
「僕の顔に何か?」
私の視線に気がついた高山田が少し高圧的に、少し嫌味な口調で言った。
私は慌てて「な、何も」と首を横に振る。
高山田は「そうですか」と素気なく言って、先ほどから読んでいる文庫本に再び視線を戻した。
また、あの嫌な沈黙。
別に気にする必要もないのだろうけど、顔見知りと二人並んで無言の時間が続くのは辛い。私は懲りずにまた高山田に話しかけた。
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