閉じた蕾
思えば、僕の数少ない学校生活はクラスの皆を保健室から指を咥えて眺めているばかりだった。
特に、授業が終わったらたった5分という短い休憩しかなくても、ドッジボール片手に秒速で教室を駆け抜けていく同朋達のバイタリティには凄いと思うと同時に羨ましいとさえ思っていた。
僕には、朝から夕方まで教室の椅子に座るだけの体力すらもないのになと。
そんな閉塞とした生活の中で桜花ちゃんの存在は太陽みたいに眩しかった。
渇いた喉を潤す水を欲するように視線は勝手に彼女の姿を追いかけていたけれど、きっと彼女にとっては滅多に会わない病弱なクラスメイトという認識でしかなかっただろう。
これじゃあ桜花ちゃんが僕のこと覚えていないのも無理もないか……。
がっくりと肩を落とす僕を和泉が信じ難いものを見つけたかのように見やった。
「すげーな、それ。ガキの頃の約束なんて時効じゃん。しかも、楠木は覚えてねーって。そんなん律儀に守ろうとするだけ無駄じゃね?」
『時効』『無駄』切れ味の鋭い言葉の矢が胸の奥深くを容赦なく突いてくる。
幼き日の思い出を意味があるものとし、大事にしまい込んでいたのは自分だけだった。
本当は僕が後生大事に抱えてきた“約束”も、哀れみで差し向けられた同情に過ぎなくて。
その同情に寄り縋っている内に、いつの間にかその記憶を美化してしまっていて。
僕はずっと、取るに足らない思い出に浅ましく執着していたのかもしれない。
生きる屍のような人生があまりに絶望的過ぎるから、桜花ちゃんに無理矢理
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