第15話 われわれ②

オートロックのいいアパートにNは住んでいた。


実家はY県で、本人は否定していたが所謂ボンボンだった。


インターホンを押すとエントランスのオートロックが開き私はNの住む三階へと向かった。


ドア横のインターホンを再び押すと、玄関扉が僅かに開いた。


どうやらチェーンをかけているらしい。


「なぜチェーンを?」と尋ねると「念には念を入れないとダメじゃん」という事らしい。


私はよほど高級な物でも仕入れたのかと思い、少しばかり期待した。


呪物はたいして見たくもなかったが、骨董品なら一見の価値がある。


招かれるまま部屋に入った私は、はっきり言って後悔した。


寒いのだ。


そのうえ、煌煌と明かりがついているにも関わらず、部屋はどこか薄暗い。


何よりも厭だったのは、部屋に充満する異臭だった。


饐えたような臭い。


嫌悪感を呼び覚ますような酸い臭い。


私はその臭いに覚えがあった。


それは祖母の家にある碁石の臭いとよく似ていた。


「これなんだけど」


そう言ってNは大事そうに何かを持ってやってきた。


それはピンポン玉ほどの黒い玉だった。


何に使う物かもわからないようなその玉は、私の嗅覚を裏付けるように、碁石に似た質感をしていた。


初めは艶があったのかもしれない。


しかし今や艶は無く、一ミリの光も反射しないような黒い玉。


それを見た瞬間、全身に悪寒が走り、酷い吐き気が襲ってきた。


いつものように、適当な言葉を並べる事も出来ず、私はそれから顔を逸らして思わず言ってしまった。


「それはマジであかん……」


それを聞いたNはガッツポーズを取って叫んでいた。



「だよね? だよね? やっぱり本物だよね? これさ、人魚の目玉らしいんだよ!!」


はっきり言ってそれの正体など、どうでもよかった。


頭痛がして吐き気が酷くなる。


一刻も早くこの場所を離れたかった。


私の体調の変化に、Nも気付いたらしい。


Nは慌ててそれを木箱に仕舞い、奥の部屋に持っていった。


「そんなにヤバいの?」


戻って来たNが問う。


もはや誤魔化しても無駄だと悟った私は、正直に答えた。


「何人も入ってる」


それを聞いたNはヘラヘラ笑っていたが、その顔はほんの少しだけ引きつっているように見えた。



続く。


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