第3話 吸血鬼
私は家を出た後、街の隅にあるバーの前で足を止めた。
とんとん、と戸をたたく。
少しして、若い青年が扉を開けた。
「あのーすみません。まだ店開けてないんすけど」
「いや、いい」
と、店の奥から現れた腕が青年の肩に置かれた。
「マ、マスター!」
腕を置いた、マスターと呼ばれた男は、青年に言った。
「こいつは客じゃねえ。こっち側の人間だ。俺が対応するから、お前は立ち上げをしていろ」
「わ、わかりました」
男に言われ、青年はバーの奥に行った。
「……すまんな。あいつはまだ新人だから、お前の顔を知らねぇんだ。許してやってくれ」
「いえ。気にしてませんよ。辻村さん」
「そうしてくれると助かる。……で、仕事の話だよな。詳細を話すから、まずは着替えてこい」
「はい」
私は中に入ると、レジの後ろに立てかけてある一本のビン……に見せかけたレバーを引っ張った。
すると、ガコン、という音とともに床が動き、下に階段が現れた。
そこを降りるとたくさんのロッカーが並んでいた。
「えーっと、確か…」
私は以前来た記憶を頼りにロッカーを探す。
そして、おそらくそうであろう目当てのロッカーに立ち止まり、開けた。
「……ビンゴ」
中に入っていたのは、刀と黒のスーツ。
私が殺しをする時に使う仕事道具だ。
スーツに着替え、刀をかけ、準備を終えると階段を上った。
「これが地図だ」
辻村はそう言って紙を渡した。
中を見ると、アジトの位置が書かれた地図が描かれていた。
「売買グループは20人ほどの外国人。数は少ないが銃を持っているし、傭兵の経験もある。気を付けろ」
「……リーダーは?」
「こいつだ」
辻村は手に持っていた写真を私に見せた。
写真に写っているのは一人の男。
年は30代後半。ガタイが良く、顔の左にある大きな傷跡が特徴的な男だった。
「こいつも傭兵あがりだが、以前はそれなりに名をはせていたらしい。相当な手練れだ」
「わかりました。気を付けます」
私は地図をポケットに入れる。
「では、行ってきます」
私はそう言ってバーを出た。
▲▽▲
月明かりに照らされる中、私は屋根を飛んで移動していた。
少しして、倉庫街に到着する。
地図によれば、ここの倉庫の一つに麻薬売買グループのアジトがあるらしい。
どこの倉庫にいるのかも地図には書かれていたが、その前にやるべきことある。
気を付けながら周囲を見回していると、目的とは別の倉庫の屋根に、誰かがいた。
姿勢を低くし、長身のライフルを構えている。
「……やっぱりいるよね」
おそらく、アジトを守るスナイパーだ。
「…………」
私は気配を殺して近づき、スナイパーの後ろで足を止めた。
そして、腰に下げていた刀で一閃。
ザシュ
スナイパーはその言葉を最後に首を切断され死んだ。
おそらく最後まで気づかなかったのだろう。
スナイパーの顔に驚きはなく、間抜けな表情をさらしていた。
「さて」
私は刀に付いていた血を拭い落とし、鞘へとおさめる。
「見た感じは監視は一人だけ。これで心おきなく中に入れるな」
私は倉庫の屋根を飛び移り、目的の倉庫に足を止めた。
目の前にそびえるドアを押す。
ギイイ……と、音を立てて倉庫の扉が開いた。
「ッ!誰だ!」
倉庫の麻薬グループの1人が銃をこちらに向ける。
私はそれに構わず近づいた。
そのとき、月明かりに照らされ、私の姿が男の目に映った。
「……子ども?」
男の動きが止まる。
私はその隙をついて男に接近、刀を抜いてその首を斬った。
「あ……?」
首から噴き出す血に啞然としながら、男は倒れた。
「「「て、てめええええ!」」」
さすが傭兵上がりといったところだろう。
麻薬売買グループは呆然とすることなく私を敵と見なし、銃を抜いた。
バンバンバンバンバン!
私に向け発射される弾丸。
しかし私はそれを避け、または刀で切り落とす。
そして近づき、次々と麻薬グループの首をはねていく。
しかし、後数人といった時だったか、ガキン!と音とともに刀が弾かれた。
「ッ!」
見ると、目の前に現れた大男が、手に付けた手甲で刀を防いだのだ。
「てめぇ……いい加減にしろよ!」
大男の拳が振るわれる。
私はそれを避け、後退した。
「オラオラ!逃げてるばかりじゃ勝てねえぞ!」
大男は私が防戦一方に見えたのか楽しげに笑う。
「死ねえ!」
大男はとどめとばかりに渾身の一撃を私に振るう。
私はそれを片手で受け止めた。
「な!?」
私は先ほどよりも力をこめて刀を振るう。
「くそ!」
大男は手甲で受け止めようとした。
しかし、私が力をこめて振るった刀はそれもろとも大男の体を切り捨てた。
「は……?がごっ!」
大男の頭を蹴り飛ばし、その先にいた男たちもろとも壁のシミとなった。
これで残る標的は一人だけ。
「さて」
最後の一人を見る。
顔の左に大きな傷跡のある男。
麻薬グループのリーダーだ。
「それでは、お命頂戴いたします」
「な、舐めるなよガキがぁーー!」
リーダーの男は銃を撃とうとする。
私は発砲される前に近づき、銃を真っ二つにした。
「な、……グワッ!」
驚くリーダーの隙を突き床に組み伏せる。
「これで終わりです」
私は刀を向ける。
「や……やめろ……」
リーダーの男は命声をするが、それで止めるほど私は慈悲深くない。
「そう言って止めるように見えますか?」
「……そうか」
そしてリーダーの男は口を開く。
「じゃあ死ね」
そこで私は、リーダーの男が左手にリモコンを持っていることに気が付いた。
「ッ!」
そして、後ろからの殺気。
――まさか!
後ろを向いた時、屋根に生えた長物が目に留まる。
――遠隔式の銃!
ダンッ!
避ける間もなく発射された銃弾が、私の腹部に命中した。
△▼△
「……マスター。大丈夫なんすか?」
バーの中。
若い男が辻村にそう口を開いた。
「口を動かす前に手を動かせ」
「いや、今お客さんいないでしょ」
「口を動かしていい理由にはならん。……で、何がだ?」
ああ、聞いてくれるのね、と若い男は心の中で呟く。
「さっき来た女子高生っすよ。今日の依頼を、あんな子供一人に任せて大丈夫なんすか?」
「あいつなら大丈夫だ」
「そうっすかね……。相手、傭兵上がりの戦闘経験者なんすよ?」
「……そうだな。お前は、オカルトを信じるか?」
「オカルト?」
急にそんなことを言われ、若い男は眉をひそめる。
「ああ。妖怪、幽霊、妖精。ガキでも聞いたことのある、未知の存在たち」
「いやいや、そんなのいるわけが……」
「いる」
辻村は断言した。
「そもそもうちはそういった存在を集め、殺しに利用きた。……アズサもその一人だ」
「……え?あの子、人間じゃないんすか」
「ああ。あいつは吸血鬼だ」
「吸血鬼?あの、日光が弱点の、不老不死の怪物ですか?」
「……まあ、吸血鬼といっても血は薄くなっているから日光を浴びても死なないし普通に生きていける。その代わり、普通の吸血鬼に比べ力は衰えているがな」
だが、と辻村は続ける。
「それでも常人を凌駕する力と桁違いの再生能力を持つ。ただの人間に、アズサは殺せはいないのさ」
▲▽▲
「……ばかめ。まんまと引っかかってくれたな」
リーダーの男はよろよろと立ち上がる。
銃に撃たれたアズサは血を流して倒れていた。
「腹を撃たれたんだ。さすがに死んでるだろ」
リーダーの男はそう思い、アズサに近づいた。
そして、目の前に来た瞬間アズサの目が開き、男の片足が切断された。
「ぎゃああああ!」
リモコンを取りこぼし、うずくまる。
ゆっくりと立ち上がるアズサ。
「ど…どうして…。なぜ生きているんだ!」
リーダーの男は痛みに耐えながらアズサを見た。
そこで気づく。
銃弾が貫いたはずのアズサの腹の傷が塞がっていた。
それだけではない。
犬歯が鋭く伸び、瞳は紅く、妖しく輝いていたのだ。
「な……なんだ。それ、は……」
「……?ああ」
リーダーの男に言われ、初めて気づいたアズサは自らの歯を触る。
「どうやら少し力を使いすぎたみたいですね」
「力を……使いすぎた……?いったい……何者なんだ、お前は」
「吸血鬼ですよ。まあ、血は薄くなってますが」
「吸、血鬼?バカな、そんなものがこの世にいるはずが……」
言葉を遮るようにリーダーの男の首元に刀が置かれた。
「別に信じてもらわなくて大丈夫ですよ。あなたはこれから死ぬんですから」
ス……、と首に刃が入り込み、首から鮮血が滴り落ちる。
「ま、待ってくれ!」
リーダーの男は命声をあげるが、刃は徐々に食い込んでいく。
「やめてくれ!なんでもする!もう麻薬は売らない!だから命だけは!命だけは――」
しかし命声も虚しく、リーダーの男の首は斬り落とされた。
――――――――――――――――――――
あとがき
「面白い!!」「バトルシーン良かった!!」「アズサの正体にびっくり!!」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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