第218話 食事
夜の事務所で、奈緒美と昴、あさぎは小規模な会議をしていた。
するとそこに、ノックして受付の職員が入ってきた。
「春風様がいらっしゃいました」
会議中であったが、黎人が来るのは予定していた事である。
受付にも伝えてあった為、既に後ろに連れて来てくれている。
奈緒美としては、勝手に入ってきてもらってもいいのだが、親しき仲にも礼儀あり、会社としての体裁と、教え子に任せている支社であるし、キチンとお客様としての対応を取っている。
この部屋に入るまでは
「あ、お疲れ様でーす!」
1番先に声をかけたのは昴であった。支社長を任せるほどに優秀なのだが、もう少ししゃんとしてほしいと思ってしまう。
社員達の前では立派にやっている様なので社長としては文句はないのだが、師匠としてはもう少ししっかりしてもらいたい。
「春風さん、お疲れ様です」
あさぎも続けて挨拶をした。
あさぎは落ち着いているが、人見知りなところがあるので、この子は副社長にして正解だと思う。
「それじゃ、ご飯にしましょうか」
奈緒美は色々と言いたいのをグッと堪え、笑顔で席を立った。
「やった!ご飯だ!」
「昴、まずお礼が先だよ。奈緒美さん、ご馳走様です」
「あ、ご馳走様です」
2人が奈緒美にお礼を言うのを聞いて奈緒美はクスリと笑った。
「黎人が時間まで言うから今日のお弁当は冷めてるけどね」
「助かったよ、ありがとう」
「紗夜さん所のは冷えても美味しいから問題なしです!」
奈緒美の言葉に、黎人がお礼を言い、昴も冷めても問題ないと返事を返した。
普段は温かいお弁当が食べられる様に食べる直前に買い出しを頼んでいる。
しかし今回は、テレビの取材があるからと言って、取材の時間にわざわざ奈緒美本人が買いに行ったのである。
「まあ、この町が賑わうのはうちの会社にもいい事だから問題ないわよ」
「助かるよ。今ではメディアでの冒険者の取り上げ方は分かれるからな、ポジティブな意見ほど大きく取り上げてもらう必要があるからな」
皆まで言わなくても、長年の付き合いから分かるわよ、と言う意味も込めて、奈緒美はそっけなく頷いてみせた。
「ほら、お弁当、昴はスペシャルで、あさぎはシャケ弁当の明太子トッピング、黎人はチキン南蛮で良かったわよね」
奈緒美は確認しながらテーブルの上に弁当を置いて行き、最後に自分の席の前に生姜焼き弁当を置いた。
黎人と奈緒美が話している間に、お茶を淹れに席を立っていたあさぎが、人数分のお茶をお盆に乗せて戻ってきた。
「黎人さん、どうぞ。これが奈緒美さんで昴はこれね」
黎人とあさぎは普通のお茶なのだが、奈緒美は猫舌なのでぬるめで、昴は温かいお茶が苦手なので専用の麦茶である。
「わかってるね、あさぎ!」
「まあ、いつもの事だからね」
黎人と奈緒美もお礼を言って、皆で食事を始める。
「それじゃ、こんな時間だし食べながらで悪いけど会議を始めましょうか」
「会議は言い過ぎじゃ無いか?世間話だよ」
奈緒美の仰々しい言い方に黎人は苦笑いだ。
「一応会社だから取引先を招いた会議よ、お弁当も経費で落とすから」
「そんなの俺が出すのに」
「いいから、始めるわよ」
こうして、タソガレエージェンシーの社長室で食事をしながらの会議?は始まったのであった。
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