9
午後5時になると一目散にカラオケに向かった。どうやって白石を探そうかと思っていたら、彼(彼女?)はフロントに出てきてくれていた。
「はやく、」
「は、はいっ」
白石が俺の腕を掴む。その指の細さったら。ちゃんと飯食ってるのか?大丈夫なのか?と心配したいキモイ気持ちをぐっと堪えて部屋に入った。
白石は細長い脚を組んで俺の目の前にドカッと座った。帽子を脱ぐと、白石は手で髪をサッと撫でた。ショートカットにした茶色の髪がふわっと揺れた。
うん、どっからどう見ても白石。なんだけど全体を見ると知らない女子に見える。まるでトリックアートだ。
「で、佐藤」
「は、はい」
「俺のこの姿見て、どう思う」
「……」
どう思う?って。なんて言えばいいんだ?なんて言うのが最適解なんだ?ああ、ゲームの神様、俺に天啓を授けて下さい。
「……えっと、うーん。可愛いんじゃないですかね……」
「……」
静寂がふたりを包む。いや、実際は隣のカラオケの声量が半端なくてラブソングが聞こえる、じゃなくて、うわー!何を言ってるんだ俺!!誰か今すぐここに穴を掘ってくれ!!
「……可愛い」
白石が呟いた。
「可愛い?俺って、可愛い?」
ぐっと前のめりになって、一気に距離が縮まった。俺が顔を上げると、まん丸の目をもっと丸くした白石と目が合った。
「……はい。可愛いと思いますが」
もう一度言うと、白石の頬が赤くなるのが目に見えて分かった。つられて俺も自分の顔が熱くなるのを感じた。
「……あの、聞いてもいいですか」
「ああ」
「その、白石は女装が趣味ってことなんでしょうか」
「……そういう事だね。俺は、可愛い格好が好きなんだ。今日は初めてこの格好をして外に出てみた。まさかクラスのやつとバッタリ!なんてことにならないといいな、って願いながら」
「……すみません。バイト先があのビルの本屋なもので」
「あ、いや、佐藤のせいじゃないから。……こっちこそごめん。急に変なもん見せて」
「いや、変ではないです。可愛いし」
「……可愛い?」
「……可愛い、と思いますが」
「へへ」
白石は照れたように笑ってから「そっかあ。可愛く見えてたんだな。よかった」と言って、安心したようにゆっくりと瞬きをした。
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