慟哭

 勝手に目が覚め、ゆっくりとまぶたを開ける。

 また、なにか変な夢をみたようだ。


「なんか、呪文みたいな…まあ、どうでもいいや…」


 あたりはもう、薄暗くなっている。寝ている間に、夕方頃になったのだろうか。


 カーテンを閉めて照明をつける為に立ち上がろうとする。


「あ…あああ…!?」


 そう叫ぶほどに、今までの比にならないほどの、頭痛が襲ってきた。


「いた…い!いたい!いたい!なに!なによ!!!」


 余りの激痛に、頭をかかえるどころか、髪をきむしっていた。


 髪がボロリと抜け落ち、小皿に盛り上がるくらいの黒い粉が出来上がった。


「あ…!あ!かみ…くろ…こな…!」


 必死でそれを掴み、握りしめると、いつもより大きい煙が吹き出し、消えて行く。その瞬間、激痛が薄く和らいだ。それでもまだ、痛みは強く残り続ける。


「もっと、もっと、くろい、こな、無いと、たすけて、たすけて」


 まだまだ続く激しい頭痛に倒れ込みながら、うわ言が続く。


「かみ、ぬけば、できる、はず」


 髪をひと房つかみ、力任せに引っ張る。激しい頭痛のおかげで、髪が抜ける痛みは感じない。


 引き抜いた髪をベッドへ散らばせると、すぐさま黒い粉へと変わっていく。


「あ…こな…あ…!」


 変わるや否や、それを握りしめる。また煙が立ち上り、頭痛がやわらいでいく。


 少し落ち着きを取り戻すと、目の前にある鏡が目に入った。


「なに…よ…わたし…?」


 そこには、まとまって毛が抜け、落ち武者のようになっている自分の姿があった。


「わた…し…が…なにしたって…言うの…?」


 胸から溢れるようにせり上がってくるやるせなさを流すかのように、涙が吹き出した。


「わたし…がんばってきた…だけ…何言われても…耐えて…耐えて…役に立たなきゃって…」


 周りの事を考え、自分が代わりになれば、丸く納まる。上司がクズなのも、社会では当たり前。サキのような友達がいるだけで、自分は幸せなのだと思っていた。


「どうして…どうして…!! わたしが…!こんな目にあわなきゃいけないの…!!!!!」


 その瞬間、夢で聞いた呪文が、はっきりと頭の中に響いた。

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