第245話 スイギョクと共に
「ラァラ!ラァラ!」
「おわっ!?」
スイギョクは勢いよくオアザに突撃すると、そのまま巻き付いて、オアザの頬をペロペロと舐め始める。
「なんでスイギョクがここに……王宮で待つように言っていただろう?」
スイギョクは滄妃龍の子供で、王族であるオアザに懐いている。
その希少性は、国宝にさえ勝るだろう。
そのため、襲撃が予想されていたオアザの屋敷ではなく、王宮へ極秘裏に輸送されていたのだ。
「ん? これは……」
ムゥタンは、スイギョクの首に何か巻かれていることに気がついた。
紙だ。
それを外してみると、何やら書かれている。
「……えーっと『なんかー外に出たそうだからー檻の鍵を外してー自由にしてあげたー可哀想な子だからー可愛がってあげてねー 竜緑花紅の姫ちゃんへ、ビル姉ちゃんより♡』だそうですぅ」
「余計なことを……!」
王宮にいる神様のことを思い浮かべ、オアザとアナトミア、そしてムゥタンが目を閉じて空を見上げる。
「…スイギョクを取り込まれると、あの二つ頭のドラゴンは強化されると思うか?」
「……滄妃龍:ブラウナフ・ロンの頭を使っているなら可能でしょうね」
「まぁ、こんなに可愛い子供の龍を、あんなドラゴンの素材になんてしないでしょう……ねぇ? パラディス元王子?」
ムゥタンの質問に、パラディスは笑顔で答える。
「あの『双頭龍 リンド・リン・ロン』は、500体の子供のドラゴンから出来ているんだよ?三頭になれば見栄えもいいよねぇ?」
「……クズが」
しかし、そのパラディスの答えは想定しており、ムゥタンとアナトミア、オアザはスイギョクを守るように立っていた。
「落ち着け落ち着け。その子供にアナトミアが乗れば、問題は解決するだろう?」
「問題って……そういえば、乗り物とか言っていたな、オウガ。どういうことだ?」
手元にある黄金の剣 オウガに、アナトミアは聞く。
「その子供は、海の女王の子だ。川の底だろうと人一人を乗せ、水を弾き、空も飛べるだろう」
黄金の剣 オウガの言うとおりである。
スイギョクは水を弾く結界のようなモノを展開することができ、その結界には人一人分の余裕は充分にあった。
「簡単に言うけどなぁ……」
「何かあるのか?」
「いくつかな……」
言いながら、アナトミアはスイギョクの背中に手を向ける。
「……ラァ!!」
すると、スイギョクがアナトミアの手をしっぽで弾いてしまった。
「その子供に嫌われているのか」
「……まぁ、そんなところだ」
アナトミアはスイギョクの兄弟の首を切り落としたのだ。
そのことをスイギョクが知っているかは分からないが、事実として、スイギョクはアナトミアにだけ懐いていない。
「それに……このまま素直に私を向かわせるとも思えないんだよなぁ」
アナトミアの視線の先には、笑みを浮かべているパラディスとメェンジンがいる。
「そうだね。今はこうやって呑気にお話をしているけど……さすがに、せっかく見つけた骨董品と、頑張って作った玩具を解体するっていうなら、全力で止めないといけないかなぁ」
パラディスの周囲に、灰色のツタのようなモノが現れる。
一見、色が違うだけのただの木のツタだが、とても禍々しい気配を発していた。
「……メェンジンさんはご協力いただけますか?」
「アナトミア様のお願いは全力で叶えたいですが……旦那様のモノを解体するような行為は、良き妃とはいえないのではないでしょうか?」
ワガママを言う子供を見るような目を、メェンジンはアナトミアに向ける。
「まぁ、当然でしょうね」
「むしろ、今までおかしいくらいですからねぇ、メェンジンの言動は」
「ちなみに、私とパラディス殿下の目に見える場所で解体いただけるなら、構いませんよ。むしろ、見せて下さい!!」
メェンジンの目がキラキラとしていた。
「……今もおかしいですねぇ、言動」
「とりあえず、スイギョクは私を乗せてくれないし、行こうとしても止められるって状況ですが……」
外で、『双頭龍 リンド・リン・ロン』がゆっくりと動き始めた。
「そろそろ2発目……いや、4発目といこうか。やっぱり、破壊力も確認したいからね」
『双頭龍 リンド・リン・ロン』の二つの口が、徐々に光り始める。
その角度は、水平よりも少しだけ下を向いており、王都ゲルドラーフを狙っていた。
「……スイギョク!」
それを見て、オアザは声を上げる。
「お前は、ドラゴンの解体師殿を乗せて、歯とあのドラゴンの解体に協力しろ」
「ラァ!?」
オアザの命令に、スイギョクは驚く。
「……ここは任せて、ドラゴンの解体師殿は、歯とドラゴンの解体を」
「かしこまりました……スイギョクは、乗せてくれるのか?」
アナトミアの問いに、スイギョクはとても嫌そうに眉を寄せる。
「ラァ……」
「……スイギョク。アナトミアを頼む」
「……ラァ」
しょうがないと、スイギョクは諦めたように背中をアナトミアに向けた。
その背に乗りながら、アナトミアは、オアザの顔を見る。
歯を食いしばり、毒を喰らったような苦悶の表情を浮かべていた。
「……オアザ様。ありがとうございます」
「なに?」
「正直なところ……あのドラゴンを解体したかったんですよ。大きいので」
アナトミアは、『双頭龍 リンド・リン・ロン』を指さして微笑んでみせる。
「……そうか」
アナトミアの表情を見て、オアザも笑う。
「『木の魔法九十九首 枯木死界』」
直後、アナトミア達の周囲を、灰色のツタと木々が覆った。
「スイギョク……飛べ!」
「ラァ!!」
灰色のツタと木々が、周囲を完全に覆う前にアナトミアはスイギョクに乗り、空を飛ぶ。
同時に、灰色のツタと木々を切り倒した。
「オアザ様!」
アナトミアは、歯を解体するためにスイギョクと共に、川底へ向かって降下しながら、パラディスを指さす。
「嘘つきですよ」
「……わかっている」
オアザは川底へ向かっていくアナトミアから、パラディスに視線を移す。
「……行っちゃったか。僕が使える最強の『木の魔法』でも、足止めできないとか。それにしてもヒドいなぁ、最後の最後まで。嘘つきって、いくらなんでも不敬じゃない?」
パラディスが不満そうに頬を膨らませた。
そんなパラディスに、オアザは目を細める。
「……事実であろう?」
「んー……そりゃあ、まぁ……」
「最強の『木の魔法』、などと言っていたが、『木の魔法』に『枯木死界』という魔法は存在しない。お前は、何を使えるようになった?」
「ん……ふふふふ……」
パラディスが、笑う。
全身を、ガクガクと震わせて。
「『死の魔法』……かな?」
パラディスの手元に巨大な灰色の鎌が現れ、オアザ達に襲いかかった。
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