第40話 幼なじみとの再会

 ボンツという少年にはじめて会ったのは、アナトミアが8歳の時だ。


(確か、10歳になった祝いとかで来たんだっけか?)


 やけに身なりの良い子供だったことをアナトミアは覚えている。


(汚したりしたら、大変だぞーってな。実際、なんか偉い人の息子とかだったみたいで、姉ちゃんは緊張していたな)


 それから、ちょくちょくとボンツはアナトミアがいる神域に遊びに来るようになった。


(……兄ちゃんとの狩りについてきたり、やけに遊びに誘っては競ってきたり、それで私が勝つと泣いたり……)


 その時にあった過去の出来事を思い出し、アナトミアは結論を出す。


(うん、やっぱりコイツには良い思い出が無い)


 いろいろな事があったが、まとめるとそういう話になる。


 そんな思い出しかない。


(かといって、死んでもいいと思うほどじゃないが……)


 ボンツは、じっとアナトミアの事を見ている。


(最後にあったのは、私が12歳の時だから、ボンツは14歳。5年も経つとデカくなるなぁ)


 それでも、少しは面影がある。


(まぁ、私も懐かしいと思わなくも無いが……)


「あの、そろそろ離してもらえませんか?」


「へ……? あ、ああ」


 ボンツはアナトミアを抱き留めてから、ずっとそのままだった。


 助けて貰って失礼かもしれないが、いつまでも抱きしめられていても困る。


 ボンツから離されたアナトミアは、そのまま立ち上がった。


「それで、その、アナトミア、だよな?」


「ええ、そうですよ。お久しぶりですね、ボンツ……様」


「あ、ああ。久しぶり」


 ボンツが、なぜか顔を赤くさせている。


「帰って、来ていたんだな」


「そうですね」


「今は、何をしているんだ? その……確か、都で働いているんだよな? おじいさんの手伝いで」


(ああ、そういえば、そんな説明をしたっけか。実際、私も都に着くまではドラゴンの解体をするなんて知らなかったし)


 祖父は後継者を探しているとしか言わずに、アナトミアを連れていったのだ。


 思い返しても、豪胆な人である。


「今は、都では働いていません。クビになったので」


「クビになった!? じゃあ、帰ってきたのはそれが原因か?」


「まぁ、そうですね」


「…………そうか」


 原因と言われると、そうである。


 淡々と答えるアナトミアとは違い、ボンツは何かを考えるように慎重に言葉を選んでいるようだ。


(この5年で成長したのか。昔は、もっと短絡的なヤツだった気がするが……いや、オアザ様に堂々と要求していたな、コイツ。やっぱり、大して変わっていないのか?)


 そんなアナトミアの考えなど知らないだろう、ボンツは、ゆっくりと言葉を吐き出した。


「……じゃあ、その、これから、どうするんだ?」


「これからは……」


 ボンツの質問に答えようとして、アナトミアは返事に困った。


(これから、どうなるんだろうな)


 アナトミアは、今はオアザの食客としてドラゴンの解体師をしている。


 しかし、それもいつまでなのだろうか。


「とりあえず、故郷に戻ろうと思っていますけど……」


 そこまでは、決まっている。


 オアザがアナトミアを彼女が育った故郷まで連れて行ってくれると約束したのだ。


 問題は、そのあとだ。


(私を故郷へ送った後、オアザ様達はどうするんだろう。もう病気の原因は取り除いたんだし、王宮へ戻るのか?)


 それは、現実的な考えだとアナトミアは思った。


 オアザは王弟で、王族の一人だ。


 ならば、王宮に戻るのは当然だろう。


 ただ、そのときアナトミアはどうなるのか。


(……正直な話。出来れば、ついていきたい。今更巫女なんてするわけにもいかないだろうし、狩りは兄ちゃんだけで大丈夫だろう。それに何より私はドラゴンを解体したい)


 もう、アナトミアの人生にとって、ドラゴンの解体は欠かせないモノになっていた。


(……まぁ、妙なことをされるのが欠点だけど、それでも、オアザ様のところにいれば、ドラゴンの解体ができるからな。妙なことさえされなければ、最高なんだよ。本当に、妙なことさえなければ)


 先ほどのような事がなければ、オアザの下で働くのはアナトミアにとって理想ではあるのだ。


 ただ、問題がある。


(問題は、私が指名手配されているってことだよなぁ。そこらへん、オアザ様ならどうにか出来るのか?)


 出来たとして、それでもアナトミアを連れていってくれるかは、分からない。


(……そう考えると、もうちょっと、愛想良くしたほうがいいのかもしれないな)


 そう、自分の中で結論つけたところで、ボンツが少し困った顔をしている事に気がついた。


「……なぁ、話を聞いているか?」


「へ? ああ、えっとなんでしたっけ?」


「その、これからどうするのかって話なんだけど……」


「ああ、そうですね。ちょっとよくわからないですね」


(実際、そうだし。というか、そもそもオアザ様の話をコイツにするわけにもいかないだろ)


「よくわからないって……」


「まぁ、とりあえずは一回実家に帰ってから考えようと思っています」


「そうか。なぁ、なら俺と……」


「団長、どうしたんですか?」


 ボンツが何か言いかけていると、先ほど、道を塞いでいた派手な鎧を着ていた集団がこちらへやってきた。


(……ああ、ボンツの仲間だったのか。なんだっけ『ポンコツオルカ』? だったけ?)


 推定名称、『ポンコツオルカ』の面々が、ボンツの周りを囲む。


 ついでに、アナトミアも囲まれた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る