第30話 船での騒動
青い空に、青い海。
そんな光景を進む爽快な船旅は、一部を血の色に変えていた。
「こんなもんかなぁ……」
船よりも小さいが、それでも小さな家くらいの大きさはあるディフィツアン・ドラゴンの死体が、少女が使う道具によって吊り上げられている。
少女の名前はアナトミア。
14日前まで、都でドラゴンの解体をしていたが、クビになってしまったので、今はある高貴なお方の元で、食客として雇われている。
仕事内容は、もちろんドラゴンの解体だ。
「もったいないけど、どうするかなぁ。許可無く回収するには、ちょっと邪魔だろうし」
ディフィツアン・ドラゴンの首の無い体から、血液がボタボタと落ちていくのを、アナトミアは眺めていた。
海は、真っ赤に染まっている。
「……ん? あれは……」
そして、何かに気づいたアナトミアは、ソレをよく見ようとドラゴンの体に近づいた。
「お、お前は何だ!? 何をしている!!」
「……あっ」
そのときだった。
船の警備をしていた兵士と、冒険者達がアナトミアを取り囲んだ。
船に体当たりをしていたディフィツアン・ドラゴンを、アナトミアはいきなり現れて殺してしまったのだ。
警戒するな、というのは無理があるだろう。
(……てか、そういえば、私、指名手配されているんだっけ?)
ドラゴンを解体できると喜んでいたアナトミアは、自分の今の状況をようやく思い出した。
ドラゴンの解体道具を盗んだという容疑で、国の治安を守る警備部から指名手配されているのだ。
といっても、姿絵まで公開されているわけではない。
しかし、特徴と名前は、手配書に記されているだろう。
(念のため……)
平民が乗る船のため、アナトミアの手配書など見ていない可能性が高いが、用心した方がいい。
アナトミアは、外套を深くかぶって頭まで隠す。
しかし、それが周囲を囲んでいる男達の警戒心を高めてしまったようだ。
明らかに、彼らから感じる視線が強くなっており、武器を握っている手に力がこもっている。
「……えっと、落ち着いてください。別に何もしないので……いや、解体はしたいのですが」
「解体……!? まさか、この船を破壊するつもりか!?」
兵士よりも前に出ていた冒険者の一人が、さらに一歩、アナトミアに近づく。
「ああああ!? そんなつもりじゃないのに! 違う、解体ってのは、このドラゴンのことで……」
「ドラゴンを使って解体しようとしたのか!? この船を!!」
「どうしてそうなるっ!? 違う! 私は……!」
アナトミアが慌てていると、船室の方から声が聞こえた。
「お前達、やめろ! その人は何も悪くない!」
どすどすと音を立てて、恰幅の良い男性が、アナトミアと周りを囲んでいた男性達の元へ行く。
「船長! でも、コイツは急にやってきてドラゴンを……」
「その人は船を襲っていたドラゴンを退治してくれただけだ! というか、ドラゴンを一太刀で倒すような人に、お前達は何か出来るのか!?」
「…………それはそうだが……」
船長に正論を言われて、男達は大人しく武器を納めた。
「申し訳ない。この船を救ってくださったのに……アナタがあの方が専属で雇われたドラゴンの解体師殿でお間違いないでしょうか」
「えっと……」
「お話を聞いたときは驚きました。まさか、あの方の食客に無礼なマネをするとは……」
「……あの方とは? いや、念のために」
アナトミアも分かってはいるが、そこまで濁されると素直に肯定しにくい。
「私だ」
船長の後ろから、ゆっくりと痩せた男性が近づいてくる。
オアザ・ドラフィール。
アナトミアを雇っている高貴な人物である。
「いきなり取り囲まれるとはな。面倒ごとは起きるだろうと思ったが……」
オアザは、なぜか落ち込んでいた。
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