第13話 色々派手な鳥

 現在クマちゃんの前には、見たことの無いとても派手な青年がいる。


「この子はどうしたの? 君達が拾ってきたの?」


 ルーク達にゆるりとした口調で尋ねる青年は、二人の仲間でウィルという名前らしい。

 派手な色の青い髪は南国の海と鳥が混ざったようだ。

 クマちゃんは彼の優しそうな澄んだ声で落ち着き、派手な見た目でソワソワもこもこした。


「不思議だね。動くぬいぐるみなんて。でも僕は綺麗な物が好きだから真っ白な君も嫌いじゃないよ」


 そういいながら青年は、装飾品で飾られた指でクマちゃんをそっとつつく。

 クマちゃんもこの青年は嫌いではない。

 真っ白でふわふわなクマちゃんのことが好きな人間に悪い者はいない。


「せっかく新しい仲間が増えたのだし、皆で出かけない? この子にも綺麗な服を買ってあげよう」



 クマちゃんはルークに抱っこして貰いながら街を眺める。

 二人がずっと仕事だったせいで、随分久しぶりな気がする。



「そういえばさぁ、ウィルって結局どこ行ってたわけ? なんか気付いたらいなくてびびったんだけど」


 クマちゃん製の加湿器から解放され元の声に戻ったリオが、ど派手な青年ウィルに尋ねる。


「おや? リーダーは君に教えなかったのかい? 僕はちゃんと伝えたはずだけれど」


 南国の鳥のような男は涼やかな声で『ちゃんと伝えた』とのたまった。

 リオはどちらからもちゃんと伝えられていない。


「言ってねぇな」


 色気のある声が端的に伝える。 

 良い声はいつも碌な事を言わない。

 

「いやいや、『言ってねぇな』じゃなくて言ってよ! 俺にも伝えてあげようよ!」


 リオはもっと愛されたい人のように、道端で『言ってよ!』と叫んだ。

 乾燥した彼の心を加湿してくれる者は、誰もいなかった。




「このリボンも良いのではない? ほら、真っ白な君には青も似合うと思うよ」


 ウィルが優美な動きでクマちゃんにリボンを結ぶ。


「いやいやいや、なんで頭に巻くの。絶対おかしいでしょ。しかも色ケンカしてんじゃん」


 頭に巻かれた青いリボンのせいで、赤いリボンの可愛さが打ち消されている。

 選択に失敗すると爆発しそうな見た目になってしまった。


 ルークは何も言わずに頭のリボンを外している。

 お気に召さなかったようだ。


「君たちには少し鮮やかさが足りないのではない?」


 そういう問題ではない。

 心が乾燥中のリオは思った。

 だが余計な事を言って自分の頭にまでリボンを巻かれないよう遠くを見つめ、黙っていた。



 可愛い着替えをたくさん買ってもらったクマちゃんと色々買った三人は、現在、例の部屋の前にいる。


「ウィル、俺と部屋交換しない?」


 仲間を嵌めようとする詐欺師リオ。 


「もしかしてリーダーと喧嘩したのかい? ちゃんと仲直りしたほうがいいのではない?」


 詐欺師を心配する優しい鳥男ウィル。

 卑劣な罠を鮮やかにかわした彼が、流麗にドアを開く。


「おや、この部屋は何故こんなに真っ暗なのだろう。――ああ、でも空気が澄んでいてとても綺麗だね」


 空気は澄んでいる!

 諦めの悪い詐欺師。

 

「そうだ。とても良いことを思いついたよ。やることが出来たから君たちは部屋で休んでいて」


 しつこい詐欺師が『ちょっと澄んだ空気吸いに行かない?』と濁った罠を仕掛ける前に、ウィルは優雅な動きで隣にある自分の部屋へと入っていってしまった。



 結局いつもの面子で、闇に包まれた部屋へ戻る。


「俺も明るい部屋がいいんだけど……」


 リオが暗い部屋で暗いことを呟いていたとき。

 隣の部屋から激しく何かを叩くような音がする。


「なんか隣からやべー音してんだけど!!」


 リオはパッとルークを見た。

 容姿端麗で無表情な男が暗闇のなか、新しく買ったリボンをクマちゃんに合わせている。

 隣室の異常には興味がないらしい。


 音はまだ鳴り止まない。


「まじでこえーんだけど!! あいつ何やってんの?!」


 リオは本気で怖がっている。


 更に聞こえた激しい音。

 

 ――暗闇に、光が射した――。

 


「は? ……なんか穴あいてんだけど!!」


 大変だ。壁に大穴が開いている。   


 光の向こうから狂った鳥男が入って来た。


「ほら、これで少し明るくなったのではない?」


 なんてことだ。

 まさかこの鳥人間は『やったー! 明るくなったよ!』と言うとでも思っているのか。



 これからの生活に不安を感じる。

 少し明るくなった部屋のなか大穴を見つめるリオは、ひとり闇を背負っていた。

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