第173話 木炭の高騰と石炭の実用化

永禄十一年 二月 小佐々城


「との」

内務省の太田七郎左衛門が言う。


「なんだ」


「木炭の値がかなり上がっており、領民の生活にも影響がでております」。


「今どれほどなのだ?」


「は、今のところ一荷二百五十文から高いときで三百文となります」


「なに?そんなにか?」


「もともと灰は需要が高いのです。灰を作るには草木を焼くか木炭を燃やすしかありません。いずれにしても小佐々領は他領に比べ、尋常ではないほど木炭や灰を使うのです」。


「灰は百姓にとっては肥料になりますから、売りたがりません。町人からは買い取ってはおりますが焼け石に水です。木炭は特産品の鉛筆づくりに必要ですし、他にもせっけん・澄酒・ガラスと大量に使います」。


「そして今、撰銭令のための鉱山を開発されています。鐚銭や粗銅から銅だけを出し、金や銀を精錬するための灰吹法には、大量の鉛と灰が必要です。そのため炭が、領内の物も他国から買い入れる物も、総じて値が上がっているのです」。


予想はしておったが、かなりひどいな。


「石炭の暖房と燃料としての実用化はどうだ?製塩は石炭を使っておるのだろう?」


「はい。塩の生産には充分すぎる量と石炭があります。したがってそのまま販売するのは問題ありませんが、商品化は手つかずの状態です。しかしながら筑前や豊前では、薪や炭を買う金のない百姓が、かわりに石炭を使っていると聞きます」。


「ただし、煙がひどいので、このままでは商品としては厳しいかと。野焼きにしてつくった物、なんといいましたかな。似て非なる物と、殿がおっしゃっていた・・・」


「コークスか?」


「はい、その『こおくす』とやらであれば煙もでませんので、良い値で売れるかと」。


「あいわかった。ではそのコークスを売り出そう。炭と同じ値で売っても充分儲かるだろう」。


(本当は煉炭とか豆炭をつくりたいけど、何をまぜるかわからん。また工部省まかせだ。研究させよう)。


炭が一荷(約60キロ)で200文だから、10トン?いや100トンくらいは出来るだろう。そうするといくらだ?100トンで333貫文か。いや、この量はあくまでとりあえずで、本当はもっと多いはず。肥前だけでなく、筑前・筑後・肥後も炭鉱を探そう。


「それからとの、作る際にでる灰があるのですが、あれは木灰と同じように使えるのでしょうか」


いや・・・・。


なんだかなあ。同じ灰でも木炭とは違うだろうし、多分畑の肥料にも使えないような気がする。ただ、なんか臭うんだよなあ。なにか、役たちそうな・・・。うーん。


これも工部省まかせかなあ。いやあ、さすがに工部省も、「これ、なにかに使えるか調べて」って言われても困るよな。丸投げも丸投げ。ヒントもくそもない。しょうがないよ。だって広ーく、はてしなく広ーく浅くなんだから。


こればっかりは、ヒラメキか思い出しにかけるしかない。


・・・・・・。ふう~。


「どがんしたとや?えらいなんかかんがえよんな」。

(どうした?かなり考え込んでるようだけど)


「セメンに入れれ。かとうなっし、なごうもつぞ」。

(セメントに入れろ。固くなるし、長くもつぞ)


神!降臨!

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