第172話 第二回練習艦隊 マカオ編

 永禄十一年 二月 マカオ 籠手田安経


「なんだと! ? 賄賂を渡していた役人が処刑? 海禁は緩和したが、日本は認めない? 倭寇に協力したから信頼ができない、だと! ?」


 明の海禁政策緩和で自由に貿易ができる! と思ったのも束の間だった。


 なにをしてくれたんだ! 倭寇め!


 しかし現にご破算になったのなら仕方がない。


 琉球との貿易を拡大させていくしかないだろう。交渉は継続しよう。居住禁止と商館の閉鎖をいい渡されなかっただけマシだと考えるしかない。


 他国の国内事情などそう簡単に変えられるものではない。言葉の違う、文字通りの他国ならなおさらだ。下手に動いて状況が悪くなれば目も当てられない。


 ここは従来どおり、情報収集と補給のための湊にしておこう。


 納めていた年二千貫文はそのまま支払う。


 これは便宜を図ってくれた役人ではなく、明国政府に納めていた物だからだ。しかし、後釜の役人にもいくらか袖の下は渡さねばなるまい。


 それにしても倭寇か。煩わしい連中だ。台湾にも拠点があるらしい。衝突しなければいいが。将来的には倭寇退治も考えないといけないかもしれない。


 連中はマカオも含めた広東から呂宋にも出没している。


 交易路の安全が確保されないと、商船など怖くて行き来できない。もっとも一昔前の倭寇は単なる略奪だったが、ちかごろの倭寇は密貿易商人をそう呼ぶらしい。


 しかし当然武装しているし、取締から逃れるために戦えば、海賊扱いされる。


 明の海禁政策の緩和も倭寇の影響が大きい。


 実際、自由な商いができるようになればいいのだが、自由になったらなったで権益の奪い合いだからな。結局武力がない者は泣き寝入りだ。


 われらは、ことさら武力を前にだすのではないが、理不尽に略奪されるのを防ぐために武装していると考えればいい。


 台湾の入植地をはじめ、マカオに安南やシャム、バンテンに作る予定なのだから。


 倭寇、といえば王直か。確か平戸にいたな。前の松浦の殿は、暗黙の了解で支援していた。しかしあれからどこにいったんだろうか。


 見ていない。小佐々の殿も、倭寇との密貿易は容認していない。


 海禁が融和されるとなれば、中国商人も増えるだろう。


 南蛮との競争も激しくなるな。南蛮には南蛮の、明には明の良いところがあるだろうから、必要にあわせて選んでいかねばならぬな。


 しかし、明は倭寇との貿易が発覚したら、支援したと見るだろうか。


 そうなれば余計に立場が悪くなる。今ではないとしても、過去にやっていれば支援とみなすだろう。現にそれが今の我々の立場だ。


 公式に日の本と交易が許可されるまでは、王直らとは接点があっても距離を置こう。もし無理やり入り込んでこようとしたら……。排除だ。


 それこそマカオの商館が完全に潰される。それだけは絶対に防がねばならない。やはり、倭寇とは距離を置く。そう進言しよう。


 さあ、新しく収集した文献を積んだら出港だ!

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