第134話 筑前の戦況と毛利の動き
永禄九年 六月 小佐々城
政家には利三郎叔父上の長女静姫を嫁入りさせ、名も偏諱にて純家と改めさせた。
もちろん、全く政略結婚的な意味合いがない、とは言わない。むしろ大きい。しかし、顔見せをして、多少はお互いを知った上での婚儀だ。
無理やり、と言われればそうかもしれない。でも、できるだけ本人たちには負担をかけたくない。幸い、そう見せているだけかもしれないが、不満はないようだった。
江上には嫡男がいなかったので忠右衛門の次男を養子に送った。
親父も頑張っている(?)が、利三郎と忠右衛門はすごい。二人共嫡男は俺と同じくらいの歳だが、利三郎が六人で忠右衛門は七人だ。この子供たちも全員、親父が出来るだけ現代ケアをさせたようだ。転生してからは俺も手伝ったけどね。
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「して千方、筑前は今どの様な感じだ?」
「は、立花鑑載につづき、宝満城の高橋鑑種、古処山城の秋月種実も蜂起いたしております。」
「なるほど。予想通りだな。」
「さらに、宗像氏貞、筑紫惟門、筑紫鎮恒、原田隆種、原田親種も兵を挙げた由にございます。」
「そうか、それは大友もたまらぬであろう。動きはあるか?」
「は、まずは吉弘鑑理と戸次鑑連、由布惟信らを立花山城に攻略に向かわせておりました。しかし高橋、秋月もほどなく蜂起したので、『挟撃の恐れ有り』と、いったん豊後に戻っております。」
「なるほど。その後はどうだ?」
「はい。まずは筑後の国衆に、久留米城の安武鎮政らとともに東肥前の勝尾城主・筑紫惟門を討伐するよう指示を出しております。」
「勝尾城の筑紫か。あそこは龍造寺と半同盟の様な形であったな。いずれにしても高橋か秋月の援軍がこよう。こちらとしては何も動く必要はないな。」
「はい、勝尾城に関しては取り立てて何も必要がないかと。あわせて、豊前の国衆には毛利に備えさせ、本隊は態勢を立て直した後、秋月の攻略に向かうかと思われます。おおそよ大友が二万、反乱軍が一万五千程度の戦いになろうかと。」
「稲刈りが終わって、十月から十一月頃になろうかと存じます。」
「そうか。三河守、毛利の動きはどうか?」
「は、されば今のところは動きはございません。しかし戦が始まりました後、時期は不明ですが、軍を動かす気配がございます。さすれば豊前・筑前・筑後の国衆の動揺は激しいはず。大友にとっては厳しいいくさになるやもしれませぬ。」
龍造寺が従属したあと、空閑衆も組み込んだ。相応の祿で召し抱えたら、やはり相当驚いていた。忍びを家臣にするのは異常(非常識?)らしい。しかし、情報は戦を左右する。やる前から勝敗は決まるのだ。大事な大事な家臣である。
千方とはいい意味で競い合って欲しい。
「よし、それでは三河守は引き続き毛利を探ってくれ。あわせて尼子もな。」
「尼子、でございますか?」
「そうだ、戦は一箇所で起こるものではない。それに連なる動きがかならず周りにあるのだ。毛利と尼子の動き、頼んだぞ。」
「ははあ」
三河守はチラリと千方を見た後、去っていった。千方は無表情を装っていたが、心中複雑なはずだ。今まで小佐々の諜報部門を一手に引き受けてきたのだから、仕事を奪われないか気になるのだろうか?
「気になるか?」
「いえ、その様な事は。」
「案ずるな、他意はない。小佐々も、皆のおかげで大きくなった。大きくなれば、当然扱う情報の量も多くなり、目的も、使い方も幅広くなる。だからといって質が落ちれば死活問題だ。石宗衆がダメだ、という訳では無いぞ。それぞれの得意分野や、例えば九州は石宗衆、中国は空閑衆と役割分担が必要だ。もちろん総元締めは千方で変わらん。信頼しておるからな。よいか。」
「ははあ」
「では、引き続き筑前・筑後衆と大友の動きを頼む。それから肥後の状況もみてきてくれ。」
「肥後、でございますか?」
「そうだ。北肥後は大友に従属はしておらぬが、好意的だ。戦となれば肥後守護の探題様の味方になろう。南九州は日向の伊東、肥後岩尾城の阿蘇、肥後古麓城の相良、島津や肝付が乱立しておる。俺の予想では島津が頭一つ抜きん出ている気がするが、まだ我らに直接影響はない。状況だけ把握するにとどめておく。よいな。頼むぞ。」
「ははあ」
千方は満足気に帰っていった。
やっぱり気にしてたんじゃん。
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