第113話 権謀術数その知謀神の如し
永禄八年 七月 佐賀城 龍造寺隆信
「して、直茂よ、首尾はどうだ。」
わしは酒を酌み交わしながら、義弟であり重臣、軍師である鍋島直茂に聞いた。
「は、万事つつがなく。もうあと一月もすれば効果が現れるでしょう。」
相変わらず表情を変えぬ。
「ふふ。さすがよのう。その方が飼っておる空閑、と申したか?なかなかにやるではないか。刈り入れが終わる頃、我らもそれに呼応して動けるというわけか。」
「は、時がたてども親を殺された恨みは、養父と言えどそう簡単には消えるものではありませぬ。立花鑑載の中にも、大友の重鎮として引き立てられながらも、釈然としない思いはあるのでしょう。」
「高橋 鑑種にいたっては実の兄を殺されております。古処山城の秋月種実もしかり。ふふふ、大国大友はいたるところに火種を抱えておりまする。」
直茂は続ける。
「子が親を、親が子を殺さねば生きて行けぬのが戦国の世のならいとはいえ、殺された悲しみはそう簡単に消えはせぬ。」
「殿も自らがご経験なされているからこそ、相手の事がおわかりになるのでしょう?」
「言うな直茂よ。」
筑前の立花、高橋、秋月が事を起こしたとなれば、筑紫、原田、宗像も兵をあげるであろう。そうなれば義鎮は肥前どころではない。そこに毛利も加わって大乱となる。一年、いや、下手をすれば二~三年は長引くだろう。
「もう一方はどうか?」
「そちらもお任せください。人というものは利によって転ぶもの。中には全く動じぬ者もおりますが、稀有にございます。みながみな、一族郎党を食わせるために生きております。さすればそこを、少しだけくすぐってやればよろしい。」
「あとはどう転んでも自らの責任。窮しているなら飛びつくでしょう。そうでなくとも、今の有り様に納得はしておらぬはず。昨日の敵は今日の友。そのまた逆もしかりにございます。」
まったくこの男は、わが義弟ながら恐ろしい。敵でなくて良かったわ。
「その後の策は?」
直茂に確認する。
「後は、ご随意になされませ。難癖をつけるもよし。そのままにしておくも良し。世の中は強い方に転びまする。大義名分大いに結構。しかしそれも勝てばこそです。」
「確かに、出る杭は打たれまする。大友にとって龍造寺は、目障りな杭にござろう。しかし、出なければ打たれる事もありませんが、伸びる事は絶対にありません。そのさじ加減、難しゅうございますが、誰かの様に臆して行動せぬ殿ではござらぬでしょう?」
ふ、言いおる。
わしは直茂の確信を持った言葉に、自分の判断を重ね合わせ、来るべき日を待つ事にした。
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