プレイスキル
「――はっ!」
「起きましたか」
仰向けに倒れるローズさんに、気絶解除のポーションを浴びせる。
ポーションの効果は凄まじく、目を回してスタンしていたローズさんはすぐに起きあがった。
「あれ? 私は……」
「頭、大丈夫ですか?」
「頭……あっ」
「大丈夫そうですね」
「私、負けたんですね」
起き抜けで混乱していたローズさんだが、すぐに自分が寝ていた理由に思い至ったようだ。
『縮地』の移動方向は、プレイヤーの向きに対し、前後左右の四方向。
模擬戦の開始時に左右に『縮地』を使う意味は無い。
背後に使い、バフやデバフを掛ける手もあるけれど、そんな器用なことをローズさんが考える訳がない。
接近してくるのは明らかだった。
それなら『縮地』の無敵時間解除後にダメージが与えられるよう、あらかじめ攻撃を置いておくだけでいい。
「アビリティに頼り過ぎですね」
「うぐっ」
確かに、アビリティは強力だ。
設定されたモーション通りに動くので、通常攻撃よりも速い。
さらに、攻撃系のアビリティは倍率の補正がかかるので、ステータスやスキルレベルによっては、通常攻撃の数十倍の威力になる。
だから、初心者はすぐに飛びつきたくなる。
「アビリティを使うなとは言いません。効果範囲や能力を考え、どのタイミングで使うのかを判断しましょう」
「……はい」
アビリティを使うだけなら初心者だ。
アビリティの効果や弱点を理解し、状況に応じて使つかうことができ、初めて中級者を名乗ることができる。
「次に、スキル構成ですね」
プレイスキルは一朝一夕で身に付くものではないし、そもそも個人差がある。
ならば、その差を埋めるのに一番手っ取り早いのがスキル構成だ。
「
「いえ、全てスキルにつぎ込みましたわ」
……まさか、一歩目で躓くことになるとは予想もしなかった。
胸を張って言うローズさん。
その顔面に、今度は手加減なしの『蹴撃』を叩き込みたい衝動に駆られる。
「多分、リスナーのアドバイスを参考にしたんでしょうけれど……それ、間違ってますから」
「…………えっ?」
一体、彼女が何のスキルにSPをつぎ込んだのかは知らないが、ステータスに振るべきだと思う。
ローズさんは、レベルこそ中級者に届きつつあるが、プレイスキルはまだまだ初心者。
ステータスを上げて安定化を図る方が効率的だ。
確かに、スキルレベルを上げることでステータスに補正は入るし、プレイの幅も広がる。
だが、多くのスキルで補正が入るのはスキルレベル5からで、補正値も『STR+10』や『AGI+30』程度。
レベルを上げれば倍率補正になるスキルもあるが、低レベルのスキルを複数所持するメリットは殆ど無いと言っていいだろう。
そして、ローズさんの場合ならば、複数のスキルレベルを5にするのではなく、主要なスキルのレベルを上げて、残りはステータスに割り振るべきだった。
「【体術】と【身体強化】のスキルレベルはいくつですか?」
「ええっと……【体術】がレベル5で、【身体強化】がレベル3です」
【体術】は『蹴撃』のように出だしが早く、威力もそこそこなアビリティが手に入り、かつ『縮地』のような回避のためのアビリティも手に入る。
そして【身体強化】は、耐久系や能力強化系のアビリティが手に入ると同時に、スキルレベルを上げることによって耐性値に補正が入る。
どちらも必須のスキルだ。
「次に【鍛冶】スキルと【錬金術】スキルは取っていますか?」
「ええ。どちらもレベル2ですけれど」
レベル2か。
【鍛冶】と【錬金術】のスキルは、近接武器を扱うならば取っておきたいスキルだ。
両方のスキルをレベル6以上にすることで『武具修復』のアビリティが解放される。
『武具修復』は武具の耐久値の減少を抑さえると同時に、STを使用して耐久値を回復させることができるアビリティだ。
この世界では、高ランクの武具やアイテムは入手しづらい。
ローズさんの『オリハルコンレイピア』のような“ちょっと頑張れば手に入る”ような武具が、こちらの世界では“国宝級の武具”になってしまっている。
当然、破損した場合の修復は困難だ。
「以上の理由から、【体術】【身体強化】を優先的に上げ、次点で【鍛冶】と【錬金術】を上げて『武具修復』のアビリティを解放します」
「だけど、スキルポイントが……」
「スキルポイントについては、勲章を埋めていけば溜まります」
勲章はモンスターを一定数討伐すると入手できるもの以外にも、多数存在する。
例えば『10メートル以上の距離から的の中心に矢を命中させる』というものや『作製難易度の高い料理のレシピの解放』といったものだ。
「これだけ広い中庭があるんですから、大抵のアクションはできるでしょう。それに、使用人の方たちの協力を仰げば、技能系の勲章も手に入りやすいと思います」
「なるほど!」
「では、早速始めますか。手始めに……『連続パリィ成功:100回』に取り掛かりましょう」
「…………へっ?」
「スキルポイントの入手とプレイスキル向上が同時にこなせる勲章です。いきますよ?」
「ちょっ、待って…………いやあああぁぁ‼」
そして、勲章を獲得するまでの数時間、中庭にはローズさんの絶叫が響き渡った。
考えなしにスキルを取っていた彼女には、これくらいのイジワルは許容されるべきだと思う。
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