オーク


 ゴブリンの討伐報酬を受け取った翌日。


 僕は再びウォーツ大森林を訪れていた。


 昨日討伐したゴブリンは146匹。


 【ゴブリンの討伐】の依頼は20匹で1クエスト扱いになる。


 よって、Cランクに昇格するためには、あと54匹討伐すればいい。


 それに関しては午前中に片付けられた。


 後は討伐証明をギルドに報告さえすれば、晴れてCランクに昇格することができる。


 ゴブリンを200匹討伐したことで【ゴブリンハンター】の勲章も入手することができた。


 勲章はモンスターの討伐やスキルの解放などで入手することができるもので、入手難易度に合わせてSPのボーナスがある。


 要求SPの多い【空間魔法】のスキルを求めている身としては、積極的に勲章を入手していきたい。


 だけど、勲章の入手は一先ずおいて置く。


 今日の目的は、外周部から少し入った森。


 ホブゴブリンやオークといった、経験値効率の良いモンスターの討伐だ。


 当然、ゴブリンなどの低級モンスターと比較すればHPが増える相手。


 なので、今までのように倒すことは難しくなる。


 ただし、難しくなるだけだ。


 ステータスの編成さえ間違わなければ、ゴブリン同様、取るに足らないモンスターなのに変わりない。


 SPスキルポイントを消費してスキルを取得する。


 取得するスキルは2つ。


 【剣術Lv.3】と【体術Lv.3】だ。


 模擬戦でのレベルアップという思わぬ臨時収入があったので、これらのスキルのレベルを上げることに踏み切った。


 そして【剣術】のスキルを上げたことによって、新たなスキルが解放される。


 それが【片手剣術】のスキル。


 これは片手剣カテゴリに位置する武器を使う際に補正が掛かったりするスキル。


 残った僅かなSPを消費し、【片手剣術】スキルも取得しておく。


 これで【STR】の補正が攻撃力に加わり、DPSが今よりも向上する。


 例え、体力の多いオークやホブゴブリン相手でも、数発攻撃を当てれば討伐できるだろう。


 【HP】と【VIT】を全く上げていないけれど、それに関しては攻撃を受けないから問題ない。



 昼食を食べ終えたら、早速森の中を散策する。


 オークもホブゴブリンもレアモンスターという訳ではないので、数分も探せば簡単に見つかった。


 発見したのはオークの方。


 見つけると同時に、相手も僕の姿を認めたのか、棍棒を振り上げて襲い掛かってくる。


 2メートル近い巨体が突進してくる様子は恐怖心を掻き立てる。


 けれど、行動パターンさえ知っていれば、意外と簡単に対処できる。


 上段から振るわれる棍棒を最小限の動きで回避。


 動きが止まったところに、新調した【アイアンソード】で斬りつける。


 狙うのは脚。


 思ったよりも肉を断つ手応えが重くて、浅い傷しか入らなかった。


 【鑑定】スキルに表示されるオークの【HP】は1割も削れていない。


 ただ、脚を斬りつけたことで動きは鈍くなったようだ。


 続く突進や棍棒を振る動作が、明らかに鈍い。


 加えて、出血していることもあってか、断続的に【HP】が減少していた。


 この二点はゲームとは違う。


 脚を斬りつけてもモーションに変化はなかったし、出血による継続ダメージは専用の攻撃のみで発生する状態異常の一つだった。


 なら、骨折はどうだろう?


 オークの攻撃を回避した隙を見て、アイアンソードの腹を膝に目掛けて叩き付ける。


「――⁉ ――‼」


 何かが割れる嫌な音と感触。


 声にならない悲鳴が、オークの口から紡がれる。


 自らを襲う激痛に、オークは棍棒から手を放し、その場をのたうち回った。


 オークの【HP】を確認すると、全体の3割強がごっそりと削れていた。


 骨折はクリティカル判定と見て間違いないだろう。


 げっ。


 アイアンソードの耐久値が減ってる。


 今すぐ武器を交換する程じゃないけど、普通に使っているよりも明らかに耐久値の減少幅が大きい。


 乱暴な使い方をすると、それだけ早く武具がダメになるってことか。


 覚えておこう。


 これ以上オークを苦しめる理由もないので、実験に協力してくれた感謝も込めて一息に首を刎ねる。


 飛沫が上がる


 同時に、オークの残り【HP】も一瞬にして弾け飛んだ。



 今の感覚だと、このレベルのモンスターはよっぽどのことがない限り大丈夫だろう。


 特に戦闘にも支障はないみたいだ。


 行動パターンもゲームと変化がなかった。


 今のステータスのままでも十分に戦えている。


 戦闘を振り返ったところで戦利品の確認に移ろう。


 まず、オークの使っていた棍棒。


 これについては、あまり価値がないと言わざるを得ない。


 材質は木で、造りも粗雑。


 仮に売却したとしても、薪としての用途しか需要はなさそうだ。


 オーク本体。


 こちらに関しては使い道はある。


 肉は食べられるし、皮を加工すれば防具にもなる。


 だけど、残念なことに運ぶ手段が無い。


 オークの討伐はCランクからの依頼なので、討伐証明をギルドに提出することもできない。


 勿体ない。


 だけど、捨てるのも忍びない。


 数十キロ単位の肉をモンスターにくれてやるのは、どうにも納得できない。


 インベントリの枠を一つ消費してしまうけれど、非常食用に収納しておくことにする。


 最後にレベル。


 こちらについては【EXP】ゲージの変化が思ったよりも小さかった。


 これは昨晩のテオさんとの模擬戦で、大幅にレベルが上がったからだろう。



 最終的に、この日はホブゴブリン計17体、オーク計11体を討伐した。


 安全重視だったので、狩った数はどうしても少ない。


 レベルに関しても2しか上昇していない。


 やっぱり、模擬戦で経験値を入手し過ぎた。


 けれど、現状で最も経験値効率の高い狩場はここ。


 ……いっそ、レーネの町を出ようかな?


 もっと経験値効率の良い狩場に行ったり、勲章の入手するためにも、次の町を目指すのがいいかもしれない。


 それに、この世界のことも見てみたい。


 観光だ。


 いろいろな場所に行って、色々な景色を見て、色々な食べ物を食べる。


 前の人生ではできなかったことが、今ならできる。


 冒険者としてモンスターを狩るだけじゃない。


 今世をもっと、娯楽などで楽しんでもいいのかもしれない。


 そのためにも、お金が必要になる。


 あと数日は、路銀を稼ぐ目的も兼ねてレーネの町に滞在しよう。



 今日は昨日の反省を生かし、冒険者ギルドの営業時間に帰還できるよう、十分な余裕を持って狩猟を切り上げる。


 しかし、トラブルは突然やって来た。


 今後の方針を決め、レーネの町へ戻る森の中。


 一人の男が茂みから現れる。



「――よぉ、クソガキ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る