ゴブリン


――ウォーツ大森林


 人間族の領土からエルフ族の領土にかけて広がる広大な森林。


 多彩な植物系アイテムの宝庫であると同時に、深部では凶悪なモンスターが蔓延る危険地帯だ。


 とは言っても、レーネの町周辺は外周部もいいところ。


 出現するモンスターのレベルも低めに設定されている。


 そのウォーツ大森林に入る条件が、冒険者ランクDに昇格することだった。


 僕は昨日、めでたく冒険者ランクがDに昇格したので、条件を満たしている。


 ここに来た理由はひとつ。


 経験値効率が序盤で最も良いから。


 初心者向けのスタング平原とは異なり、ウォーツ大森林では頻繁にモンスターと遭遇エンカウントできる。


 経験値稼ぎにはもってこいな場所だ。


 また、Dランクからは少しずつ討伐系の依頼も受注できるようになる。


 ここに来る前に、冒険者ギルドで『ゴブリンの討伐』の依頼を受けるのを忘れていない。


 ゴブリン一匹の討伐で2000Rリン


 正確には【ゴブリンの左耳】というアイテムをギルドに提出することで報酬が支払われる。


 一体、ゴブリンの耳なんて何に使うんだろう?


 それとも、討伐証明トロフィーとしての役割なのだろうか?


 戦国時代だと倒した敵の武将の首や耳、鼻なんかを切り取った数で功績にしていたみたいだし。


 耳塚とか首塚とかが供養の目的で作られたのだとか。


 ……。


 ポーションの材料とかじゃないよね?


 ポーションの調合には決まったレシピが無い。


 それこそ『強靭化スーパーアーマー』のポーションの材料に【鉄塊】を使うレシピもあった。


 ゴブリンの耳を材料にするポーションがあっても、何ら不思議じゃない。


 ……。


 目標変更!


 モンスターを倒して経験値を入手した後、最優先事項で『調剤』と『調合』のスキルを入手してポーションを作製できる体制を敷く‼


 オークの肉を使ったステーキもグレーだったけど、さすがにゴブリンのポーションはアウトだ。


 そうと決まった訳じゃないけど、口に入れる物は自分で作った方が安心。



 改めて方針が決まったところでゴブリンを見つけた。


 ゴブリンの外見は緑色の肌と子供くらいの身長、黄色い瞳、そして醜悪な顔。


 今は茂みで木の実でも食べているようで、こちらには気付いていない。


 丁度いい。


 僕は足音を殺しながら茂みに近づき――


「? クプ――?」


 ゴブリンのうなじに剣を突き立てた。


 串刺しになったゴブリンは悲鳴を上げることすらできずにその場に倒れる。


 そして、数秒痙攣をした後に絶命する。


 しまった。


 これだと、ただゴブリンを討伐しただけじゃないか。


 もっと考えて攻撃すればよかった。


 【ブロンズソード】の攻撃力は【50】。


 そこにSTR値が加算されて、僕の与えるダメージは合計【60】。


 この辺りのゴブリンのHPは100前後だから、一撃で倒すには約40ダメージ足りない。


 今の攻撃は、未発見状態からのアサシネイトに分類される。


 よって、与えるダメージは2倍の【120】。


 さらに、ゴブリンの首元を狙った攻撃だったから、もしかするとクリティカル判定になっているかもしれない。


 これでダメージは、さらに1.2倍の【144】になる計算だ。


 明らかなオーバーキル。


 でも、ゴブリンは剣が突き刺さった後も痙攣を繰り返していた。


 ゲームではHPが0になった時点で戦闘不能。


 苦しむモーションを取った後、エフェクトを撒き散らしながら消滅して、その場にアイテムが散らばる仕様だった。


 『痙攣していた』ということは『動ける』ということになる。


 HPの減少の猶予がある?


 その場合はすぐさま回復行動を取れば死亡を回避できるのか。


 それともダメージを受けた時点で死亡は免れないのか……。


 ただの生体反応だった可能性も捨てきれない。


 考察の幅がどんどん広がっていく。


 ……よし。


 取り敢えず、耳を剝ぎ取ろう。


 血が流れてる以上、この臭いを嗅ぎつけて他のモンスターが近寄ってくる。


 ゴブリンの首に突き刺したブロンズソードを引き抜き、一度インベントリに収納。


 そして再びインベントリから取り出す。


 この工程を挟むことで、剣に付着した血は綺麗さっぱり拭き取られる。


 レジサイド・オブ・サーガには武具ごとに耐久値が設定されていて、限界を超えた使用により武具が破損することがある。


 戦闘に使用した武器は手入れを怠ると『さび』や『刃毀はこぼれ』といった状態が発生。


 結果、切れ味が低下したり攻撃補正が減少したりする。


 血糊はインベントリに入れることで落ち、錆を防ぐことが可能だった。


 その仕様は今でも残っているようで安心した。


 剣を鞘に納め、森に入る前に武器屋で購入した解体ナイフを取り出す。


 ゴブリンの左耳を掴み、顔の輪郭に沿ってナイフを走らせる。


 すると、簡単に耳を剥ぎ取ることができる。


 剥ぎ取った耳は昨日からお世話になっている麻袋に仕舞っておく。


 汚れた解体ナイフをインベントリに収納して血を落とすことも忘れない。


 これで、一匹。


 ゲームだと討伐からアイテム取得まで数秒で終わっていた行程が、ここでは数十秒はかかってしまう。


 どうやって効率的にモンスターを狩れるのかが重要になりそうだ。



 しばらく狩りを続け、昼頃にはレベルを15にまで上げることができた。


 昼食用に包んでもらった銀狼亭のバゲットサンドを頬張りながら、午後の計画を立てる。


 厚めのベーコンとみずみずしい野菜、それに表面に軽く色が付くまで焼いたパンの組み合わせが堪らなく美味しい。


 昨晩『白金の葡萄酒』で経験値ブーストがかかっているのもあって、かなり楽にレベル上げができた形だ。


 倒したゴブリンは合計で40匹前後。


 要求経験値が多くなるレべル20までは今日中に上げておきたいので、午後からはペースアップをしよう。

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