第5話アークセイバー

「樹咲くんから剣が生えた!」

「本当に勇者……だったのね……」

 

 憧れの先輩や知らないOLが侍なり魔女なりに変身するのもショックはあったが、よく知る彼に非現実な事が起きたのには驚き疲れた芽愛里と京も今日一の驚きを更新した。

 

 「やっぱり……あいつも……転生者!」


 燐は歯を食いしばり、彼を助けたのを少し後悔した。自分達と同じ転生者であったからだ。

 

「あ……アークセイバー……!?」


 そして、一番狼狽しているのがOL魔女であった。終始余裕の表情を崩さなかった彼女がここまで揺さぶられている様は、燐も顔には出さないものの意外であった。

 彼女の狼狽は彼の持つ聖剣の為であるようだ。


「魔力が俺の記憶と武器を解き放ってくれたんだな」

「その聖剣を持つと言う事は本当の勇者!?」

「俺も少ししか思い出せないけど、そうらしい。どうやら貴方とは同じ世界の出身らしいねぇ」

「よりにもよって……勇者が転生ロワイヤルに……とてもじゃない、とてもじゃない!」

「そんだけ強いんだ俺の前世!やった〜凄いじゃん!」


 剣司は自分の前世が勇者だった事に喜び小躍りした。いつもの陽気さを取り戻している。

 正直彼は記憶を断片的にしか思い出していない。本名すらもだ。

 勇者と呼ばれてた事とマントをはためかせ佇む前世の自分の姿、この荒野でファンタジーRPGに出てくるモンスター相手に剣を振るい戦う姿しか思い出せていない。

 でも、自分や聖剣を知る魔女の反応を見て只者ではないことは分かった。

 憧れの勇者と同じ存在で、現世でもそう呼ばれていることにさらなる誇りと喜びに痺れている。


「さあて、もっと俺の事を教えて貰いましょうかね!」

「まだ目覚めてまもない……なら今が!」


 魔女は決意を決めた。箒を操作して、舞い上がる。そしてステッキに炎を溜めた。


「ありゃ、仕方ない。仕方ないからブランク解消とでもいこうか」


 剣司は聖剣アークセイバーを右手で握る。そして、構えもせずゆっくりとOL魔女へ近づいていく。

 その一歩一歩は彼女の視点からは恐ろしいく重く威圧的な一歩に見えた。

 ステッキから無数の火球が発射された。剣司を目掛けて降り注ぐ。冷静さを欠いた攻撃だが、破壊力は間違いない。

 しかし、剣司は避けようともせずそのままゆっくり近づいた。

 降り注ぐ炎の雨を彼は一身に受ける。

 だが


「嘘でしょう……!」

「持ってるだけでここまでとは、凄いな聖剣おまえ!」


 彼は無事だ。

 怪我1つもせず、衣服に焦げすら見当たらない。

 OL魔女は前世で聞いた伝承を思い出した。

 聖剣が持ち主に加護を与える。それは、肉体に刃も魔法も届かない、鋼の如く強靭な守りを与える。

 魔法すらかけていないのに、ここまでの奇跡を起こすとは彼女の前世で存在した魔法使いですら片手でしか数えれない。

 ありえないとされていたが本当なのなら、真の力はこんなものではないはず。

 これに魔力が絡めば大変な事になる。

 彼女の焦りはさらに加速する。


「これならぁ!」


 今度は炎の矢を連射する。

 先程と同じ焦燥に駆られた技だが、全てを溶解させ貫く矢ならば鋼の身体でも傷は付けられる。火球よりは有効だと賭けたのだ。


「それはキツイかも」


 聖剣を両手で握り、中段に持ち上げ構える。

 樹咲剣司自身は剣術のついては素人だ。

 しかし、今剣を構えた男の姿は手練の剣士の佇まいだ。

 そして、迫り来る矢を、彼は次々と切る。

 聖剣によって矢はかき消されいく。

 剣の速さは、燐にも負けてはいない。


「凄い綺麗な剣使い……本当に樹咲君?」


 学生服のままなのに、樹咲剣司そのままなのに、聖剣を握り剣を振るう姿は美しさすら覚えた。

 いつもの三枚目の彼とは明らかに隔離している。

 美しさを欠くこと無く矢を全て迎撃した。


「さあ、バッティングはおしまいだぜ」

「伝説の英雄!例え貴方であろうとも!」


 剣司の言葉は届かず、魔女の一世一代の技が起動する。ステッキから魔法陣が現れた。先程の技達とは違い炎は吹き出ていない。だが、あれは段違いの大技であることは魔力を感じられる剣司には直ぐに分かった。

 彼女は自分の存在を知っている。

 そして、存在の大きさをも知り尽くしている。

 だから焦燥し、恐れ、これ程までの技を出そうとしているのだと剣司は悟る。


「どうしようかなぁ〜」


 とはいえ、あれをどうやって対処するか。剣司はゆっくり目を瞑った。

 思い出せた記憶、その中で役に立つ物はあるだろうか。数々の魔物との戦いを思い出させる。今回のような戦いはあるだろうか。この燃焼した香り漂う戦場と同じような場面は……


「――あったぁ!」


 剣司は叫んだ。剣を両手で強く強く握る。

 まるで力を全て注ぎ込むように。

 剣を包む光の粒子がどんどん別の物に変わる。


「喰らえ英雄ヒーロー超高温溶解光線メルトダウン・レイ


 超高温によって、物質を溶解させる光線が魔法陣から放たれた。

 そして、聖剣にも全てを焼き尽くす正義の炎が吹き出した。


「炎なら勇者も……俺も使ってたんだ!」


 聖剣は只の剣ではない。OL魔女の懸念の通り幾つもの奇跡を引き起こせる。

 これはその中の1つ。

 この力で勇者は、火山大陸を支配するマグマ巨人を逆に燃やし尽くし、絶対零度の女王を氷の居城ごと蒸発させた。

 豪炎の最強剣は、剣を纏う炎は天にも届く程の出力を見せている。

 なおも、剣司の雄叫びとともに火力は上がる。

 そして


「喰らえ、アークセイバー火炎斬り!」


 即興で考えた技を叫びながら、火炎の剣は振るわれた。

 豪炎は月明かりの代わりに天を真っ赤に染めた。全てを溶かしてしまう光線は、聖剣の炎に掻き消された。


「うっ……きやああああ!」


 炎はOL魔女にも届き、箒と衣服を燃やしながら落下させた。


「ぐうっ!がはっ!」


 高度から落下したものの、魔女もタフなのか生きている。しかしかなりのダメージであることは血が口から垂れ、ふらつくように立っていることから明らかだ。


「私の熱光線よりも……熱い……炎……そんなの……勝てるわけないじゃない」

「あれっ?これどうやって消すの?火事になる火事に……って考えてたら消えた!すげえ!」


 アークセイバーから出ていた原初の炎は剣司が消えろと念じると収まった。聖剣の勝手の良さに剣司は只々興奮していた。

 そんな彼に魔女は尋ねる。

 

「どうするの勇者……私を殺すの?」

「……はあ?殺さないよ?」

「えっ?」

「え?」


 OL魔女は驚いた顔を見せた。

 その表情を見て剣司もキョトンと驚いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生者達よ殺し合え @akirander7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ