第40話 おじさん
「すごいねぇ。本当にそこら中メカニックアニマルだらけだ」
メリアがすぐそばのテーブルの上でくつろいでいる猫のメカニックアニマルの頭を撫でる。茶色の毛並みを持つ猫は「ニャア」と鳴きながらメリアの手に顔をすり寄せた。
「私とダイアが保護したり、メカニックアニマルが他のメカニックアニマルを連れてきたりして増えていくの。元々いた子たちも多いしね。どうぞ、好きなところに座って」
エルダに促され、スーたちはテーブルの席につく。ルルは周囲のメカニックアニマルに少々怯え、近づいてきた機械仕掛けの犬に驚いて、椅子から落ちそうになっていた。スーの頭には機械仕掛けの小鳥がとまり、くつろぎ始める。
「じつはここにいる子たちだけじゃなくてね。もっと大きな子たちは上の階にいるの」
「上にまだ部屋があるのか?」
「うん。階段があってね、下層の上部まで続く階段。その階段の所々に部屋があるの」
「下層上部まで続くって……結構長い階段じゃないか?」
「うん。長い階段だね。元々魔女の隠れ家だから、逃げるための出入り口が至る所にあるの。私たちのおじいさんが部屋を作って暮らせるようにしただけで、元々は隠し通路みたいなものみたい」
「おじいさんはいないの?」
メリアが猫と戯れながら特に意図はなく問いかけると、エルダは暗い顔をした。
「……いない……よ。一週間前ぐらいかな。メカニックアニマルに襲われて、大怪我を負って……そのまま。年も年だったし、回復は難しかったから、仕方ないのだけど……」
「そ、そんな……その……ごめんなさい。私、そうとは思わなくて……」
メリアが申し訳なさそうに言うと、エルダは「いいの」と微笑んで首を横に振った。
「私もダイアももう立ち直るって決めたから」
「メカニックアニマルに襲われたって……ドゥドルのせいで凶暴化したからか?」
「うん。そうだと思う。おじさんはね、血の繋がってない私たちを拾ってくれた人なの」
「あ、そっか。名前が違うから、エルダとダイアは姉妹じゃないんだね」
「うん。私たちは下層中部で攫われて、売り飛ばされそうになっていたところをおじさんに助けられたの。おじさんはメカニックアニマルの技術を使って人助けをしている人で、ダイアはおじさんから技術を教えてもらったんだ。私は不器用でダメだったけどね」
その時、エルダの足元にウサギのメカニックアニマルが寄って来た。白い毛皮に覆われた身体を持つ、旧世界のウサギと酷似したそれはクリクリとした愛くるしい瞳でエルダを見つめ、エルダは少し悲しげに微笑むと、ウサギを抱き上げた。
「おじさんは至る所でメカニックアニマルを保護してたから、メカニックアニマルが凶暴化したって聞いて居ても立っても居られなくて飛び出して行って、そのまま戻ってこなくなっちゃった」
悲しそうにウサギを抱きしめるエルダに、メリアとスーとルルは何も言えない。すると、エルダは「ごめんね、暗くなっちゃった」と笑った。
「あなたたちはどこに向かっているの?」
「フェルベールの所だ」
「ミス・フェルベールに? へぇ……だったら、この家の階段を使った方が近道だね。どうぞ通って行って」
「ありがとう。助かる。とはいえ、まあ……ネネの用事が終わらない限り動けないな」
「も、もしかして、私はもう頑張って壁を登らなくていい……⁈」
メリアが期待に満ちた眼差しをスーに送り、スーは苦笑しながら「そうだな」と呟いた。メリアが「やったぁー‼」と両手を上げ、スーの頭にとまっていた小鳥が驚いたのか飛び立つ。ルルも心なしかホッとした様子だ。
「ふふ。いいよ。この家は私とダイアだけじゃ広すぎるぐらい部屋が余っているから、好きなだけ泊っていって。ダイアもあの様子ならあなたたちを気に行ったみたいだし、許してくれるよ」
「そ、そこまでお世話になってしまっていいのですか……?」
ルルが恐る恐る問いかけると、エルダは「もちろん!」と笑った。
「野宿は危ないよ。中部はメカニックアニマルが暴れてるだけじゃなくて、悪い大人が子供を攫って行くから。私たちは大人たちから隠れるためにここで暮らしているの」
「……あのさ」
スーが真剣な表情をしながら口を開き、エルダが不思議そうに首を傾げた。
「いままではおじさんが守ってくれてたんだろうけど、下層の中部は守ってくれる存在がいない子供が暮らすには危なすぎる。それならせめて、下部のスラムで暮らした方が安全だ。ここから下りた方がいいんじゃないか?」
「……そう……だね。その方が安全だと思うよ。でもね、私とダイアはおじさんとの思い出が詰まったこの家から離れたくないの。それに、ここにはおじさんが保護したメカニックアニマルがたくさんいる。ダイアはこの子たちのことが大好きだから、絶対ここから離れないよ」
そう言うと、エルダは「心配してくれてありがとう」と笑った。
「大丈夫。確かに大人は怖いけれど、私にはダイアがいて、ダイアには私がいるから一人じゃない。この家はおじさんの代わりに私たちを守ってくれるから」
「……そうか。お節介なこと言って悪かったな」
エルダはふふっと笑い「スーは優しいね」と微笑んだ。その時、奥の部屋の扉が開き、機械仕掛けの小鳥が飛び出してきた。
「あ! ちょっと待って‼」
バタバタという足音と共にネネとダイアが飛び出してくる。小鳥は天井で一度旋回すると、メリアの頭の上に降り立った。メリアが「わあ」と声を上げる。もげていた翼は修繕され、小鳥は元気に「ピイ」と鳴いた。
「あらまぁ……もうちょっと整備させてほしかったんだけど……」
「まあ、あれだけ飛べていたら問題はないよ」
部屋から出て来たダイアがそう言い、ネネが「そうね」と笑った。
「それにしても、ダイアの作業部屋はすごいわね! ほとんどの部品が揃ってるし、一からメカニックアニマルを組み立てることも出来るわ!」
「ふふん。そうでしょ? 備品は全部おじさんが持ってたものだけど、部品を集めたのは私なんだよ!」
「へぇ……! どうやって集めているの?」
「主に魔鉱石の力が切れて動かなくなったメカニックアニマルの部品を再利用したり、そこらへんに落ちてる金属片を加工したり」
「加工は私もよくするけど、こんなに綺麗に部品を作れる技術がすごいわ……!」
「加工技術も見る?」
「ぜひ‼」
ネネとダイアの会話を聞きながら、スーが絶対に今日中にはジョージのもとにたどり着かないことを悟り、小さく息をついた。メリアとルルも目を見合わせて苦笑する。
「好きなだけ見学してくれていいよ、ネネ。スーたちも好きにくつろいで。この家はいつでも賑やかだけど、ここまで賑やかなのは初めて」
エルダが嬉しそうに笑い、ネネとダイアが楽しそうに話しながら奥の作業部屋に戻っていった。
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