第39話 メカニックアニマル専門店
通路を進むと扉の前にたどり着いた。扉にかけられた看板には『メカニックアニマル専門店』と書かれている。ネネが目を輝かせた。
「メカニックアニマル専門店⁈」
「え、ええ。メカニックアニマルの部品を売ったり、メカニックアニマルそのものを作ったりしているの。まあ、私が作っているわけじゃないんだけど……」
「すごい! すごいわ! 中を見てもいい⁈」
「い、いいよ」
エルダがネネの勢いに押されつつ頷き、ネネが扉に手をかけようとしたが、スーが扉の向こう側から聞こえて来たバタバタという足音に気が付き、咄嗟にネネの腕を引いて扉から遠ざけた。ネネが「わっ⁈」と声を上げる。
「騒がしい‼」
次の瞬間、白髪の少女が扉を勢いよく開け放ち、スーに腕を引かれたネネは扉の直撃を免れたが、代わりにスーの顔面に開け放たれた扉が直撃した。
「ぶっ⁈」
顔面を打ちつけたスーが後ろに倒れる。
「きゃあっ⁈ スー⁈」
「スー⁈ 大丈夫⁈」
「あわわ……!」
「ご、ごめんなさい‼ 大丈夫⁈」
ネネとメリアとルル、そしてエルダが慌ててスーに駆け寄ったが、扉を開け放ってスーを負傷させた本人である白髪の少女はたいして驚きもせず「わぁ」と呟いた。
「わぁ、じゃないでしょう‼ ダイア‼」
「エルダこそ、なんで見ず知らずの他人を家に入れてるの⁈」
「いいから‼ 先に謝って‼」
スーが顔を押さえながら起き上がる。そして、すぐそばにいたメリアに「俺の鼻取れてない……?」と問いかけ、メリアが慌てて頷いて「取れてない!」と答えた。
「だって……騒がしいから大人たちが入って来たのかと思ったんだもん」
「謝って‼」
「……ごめんなさぁい」
白髪の少女が不服そうにスーに頭を下げる。エルダが何度も「ごめんなさい! ごめんなさい!」と頭を下げた。
「まぁ……鼻が取れたわけじゃないし、許してあげましょうよ、スー」
「取れてたら大惨事だよ……⁈」
「る、ルルは怒ってもいいと思いますけど……」
「……いいよ。鼻が取れたわけじゃないし……」
スーとネネの会話にメリアとルルが顔を見合わせ「基準そこなの……?」と首を傾げた。
「で? エルダはなんでこの人たちを入れたわけ?」
「ダイア……先に自己紹介しよう?」
エルダに言われ、白髪の少女が渋々と言った様子で口を開く。
「ダイア・アダマス。この店の店主」
「店主⁈ じゃあ、あなたがメカニックアニマルを作ってるの⁈」
ネネが目を輝かせて問いかけ、ダイアは怪訝そうな顔をする。
「そうだけど……人に名乗らせたのならそっちも名乗るのが道義じゃない?」
「あ、それもそうね。私はネネ! ネネ・コルスティン。そして、危うく鼻が取れかけたのがスー。ストレリチア・メイソンね。それでこっちがルルーナ・ミミィ。ルルって呼んであげて。それからメリア・リンセント」
順番に紹介されたスーたちが軽く会釈する。ダイアはたいして興味なさげに「ふうん」と言った。
「まぁ、いいよ。エルダが招き入れたならお客さんだ。どうぞ」
ダイアに招き入れられ、スーたちが通路で馬を待たせて扉の中に入ると、そこは店というよりも普通のリビングのようであったが、大量のメカニックアニマルがいた。機械仕掛けの小鳥や、愛玩用として作られた、旧世界の動物に酷似したメカニックアニマルがいて、家具の上で眠っていたり、天井に沿って飛んでいたり、それぞれくつろいでいる。ネネが目を輝かせた。
「ようこそ、メカニックアニマル専門店へ」
ダイアが得意げに言い、ネネが「すごい!」と声を上げた。
「どういうお店なの?」
メリアが部屋の中で飛んでいる小鳥を目で追いながらエルダに問いかける。
「その名の通り、メカニックアニマルに関することを専門とするお店だよ。実用的なメカニックアニマルを作って売ったり、修理したり。街中に溢れてるメカニックアニマルの保護もしているから、ここはメカニックアニマルだらけなの」
「もちろん、メカニックアニマルを売ってるって言っても、メカニックアニマルを大切にしてくれる人にしか売らないよ。メカニックアニマルは機械だけど、生きているから」
「素晴らしいわ!」
その時、ネネがダイアの両手を掴んだ。困惑するダイアを真っすぐ見つめ、ネネはブンブンと手を振りながら興奮気味に言う。
「こんなお店があるなんて! もっと早く知りたかった! 天才よ!」
「あ、ありがとう……」
「あ、そうだわ! メカニックアニマルの修理をしているってことは、メカニックアニマルの部品もあるってことよね?」
そう言うと、ネネはポケットからメカニックアニマルの小鳥を取り出した。それは男たちに故意に壊された可哀想な小鳥で、足は綺麗に修繕されているものの、もげた翼はそのままだ。
「連れてきてたのか?」
「ええ。治してあげたかったんだけど、部品が足りなかったの。ミス・フェルベールの所にいけば部品があるかなって思って連れて来たんだけど、ここにあるなら治してあげられるわ!」
「へぇ、あなたもメカニックアニマルをいじれるの?」
ダイアが少し興味を持ったといった様子でネネの手に乗った小鳥を見た。ネネが「ええ」と答える。
「どう? 部品はありそう?」
「余裕。あるよ。こっちに来て」
ダイアがネネを連れて奥の部屋へと入っていく。その後を、旧世界の犬に酷似した白い毛皮のメカニックアニマルが尻尾を振りながらついていった。
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