☆ギラファスとの直接対決③

 ギラファスの巧みな話術によって、この場の空気が、アルを呼び出す流れになってしまった。


 なんだか騙されているみたいな気もするけど……こうなったら、ボクもアルの身に危険が及ばないように、事前にしっかりとした条件を付けさせてもらうよ!


 ん? 口約束だけだと条件が守られないんじゃないかって?

 まあ、そう思っちゃいそうだけど、でも多分、大丈夫だ!


 特性って言ったらいいのかな?

 天界人は、一度約束したことに対して、それを頑ななまでに守ろうとするところがあるんだよ。


 それはきっと、ギラファスにも当てはまるはずだ。


「呼び出すにあたって条件をつけさせて欲しい! まず、アルの安全を保証すること! それと、下界の姫さまの解放と安全も保証してもらう。あ! もちろんアルのことは譲ったりしないよっ!? あと、この件が終わったらちゃんと自主してほしい。えっと、あとは……と、とにかく! アルの嫌がることはしないって約束して!」


 上目遣いにギラファスを見据えながらキッと目力を込めると、ボクは強気に条件を突きつけた。


「むっ!? そ、そんな目で見ずとも心配いらん!」

「??」


 ボクの『睨み』を受けたギラファスが、なぜかひどく慌てだした。

 ソワソワと落ち着きがなくなり、視線を彷徨わせている……

 ボクの睨みがそんなに怖かったのかな?


「? じゃあ、ちょっと待ってて。まずはアルに説明するから」


 胸に手を当てて精神を集中すると、ボクの中でスヤスヤと眠るアルに向かって優しく呼びかけた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ——(ギラファス視点)——


 今、危うく『王者の洗礼』を受けてしまうところであった。

 いくら油断していたとはいえ、この我輩をここまで慌てさせるとは……


 『王者の洗礼』は下界人、霊界人はもちろん、天界人ですら『信者』として従わせることのできる『王族特有の能力スキル』だ。


 まさに、選ばれた王者にのみ受け継がれる能力スキルなのだが、そのスキルをこの者が持っていようとは思わなかった。


 それも、擬似体の状態で、しかも、無自覚にその能力スキルを発動した……


 (もしかすると、この者はレファス様をも凌ぐ力を持っているやもしれん。だとすると、言い聞かせるには少々骨が折れそうだ……)


 我輩は、『欠片』を呼び出すために瞑想に入ったこの者を見つめながら思った。


 (『どちらか一つを選べ』と言ったら、この者はどう出るのだろうか……)



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「アル、ちょっといいかな?」


 ボクの呼びかけに、アルがピクリと反応した。

 アルの意識がどんどん浮上してくる。


 十分覚醒したことを確認してから、ボクは心の中でアルに話しかけた。


 (アル、実は今——)

「クゥ〜、ガーラ、やっと呼んでくれたのね! さあ、聞かせてもらうわよ! 彼とは、あれからどうなったの!?」


 アルは一つ大きな伸びをすると、待ちかねていたかのように、矢継ぎ早にヴァリターとのことを興奮気味に聞いてきた。


 くわぁぁっ、やってしまった!

 盛大に、一人二役な独り言を、よりにもよってギラファスの前で披露してしまった!


 きっとギラファスからは、ボクが突然、女子っぽく(女の子だけど……)体をくねらせ出したように見えたことだろう。


 驚愕に目を剥いたギラファスの、その視線が痛い……


「うぅっ、ア、アルぅ。ちょっと状況確認くらいしてよ……」

「な〜に? ……あ、……ああっっ!!」


 アルはギラファスと目が合うと、大きな声を上げて、突然、ボクのことを強く抱きしめた。


「!? ア、アルっ!?」

 (どうしたんだよっ、アル!? 『ナルシストスタイル』になってるよっ!?)


 アルの感情が、これまでにないほどに昂っている。


 いつもと違うアルのその様子に驚きつつも、冷静になってもらおうと思ったボクは、冗談めかして心の中で必死にアルに呼びかけたのだが……


「ガーラのことイジメたら、私が許さないわよっ!!」


 アルは、ボクの言葉が聞こえていないようで、強い口調でギラファスを牽制すると、ボクのことを庇うかのように、壁に走るパイプの影に飛び込んで身を隠した。


 驚いたことに、アルに体の主導権を奪われてしまって自由が効かない!?

 こ、こんなことは初めてだ!!


「ア、アルッ落ちっ、——また、私からガーラを取り上げるつもりなのっ!?」


 焦りながらも、なだめようとしたボクの声を遮って、アルはギラファスに向かって抗議の声を上げた。


 (と?……取り上げる?)


 意味は分からなかったが、その言葉がなんだか妙に引っかかった……

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