☆ギラファスとの直接対決①

 軽い電子音と共に開かれたラボの二重扉を潜ると、ギラファスがゆったりと壁にもたれかかった姿勢で待ち構えていた。

 しかも、誰かに憑依した姿ではなく、天界人としての姿で……


 (な……何でここにいるの?)


 ボクは、首だけで振り向いた不自然な姿勢で、その人物から目が離せないでいた。


「ふ、封印は……?」


 いろいろと言いたいことはあるというのに、頭の中が疑問符だらけで、この一言を発するのが精一杯だった。


「見ての通りだ……」


 ギラファスは腕を組んだ姿勢のまま、顎をしゃくるようにしてラボの二重扉を指し示しながらそう答えた。


「え……えぇぇ。それって、いったい……」


 ギラファスの言葉が足りなさ過ぎて、何が何だか分からない。


 ギラファスは今、どういった状況なの?

 アジトで泣いているであろう姫さまは、今どうなっているの?

 そもそも……ここは、どこなんだ!?


 それらの情報が何一つ分からない。そんな状況では迂闊に行動することができない……


 (い、いったい、どうすればっ!?)


 ギラファスが探るような目をこちらに向けていたが、すっかり混乱して固まってしまっていたボクには、その視線の意味について、深く考える余裕はなかった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ——(ギラファス視点)——


 やはり、思った通りだった。

 この者こそが、『封印の鍵』であったのだ。


 (見つけられんはずだ……そもそもの設定から間違っていたのだ)


 それは、王女の魂をこの目で直に見ていたが故の思い込みだった。


 真っ白な魂に、寄り添うようにピタリと付いていたオレンジの輝きを放つ『王妃の欠片』。


 その影響を色濃く受けていると推測したからこそ、捜索基準を『女子』に限定してしまったことが、そもそもの間違いだった。


 まさか、男子に転生しているとは思わなかった。

 しかも、これほどまでにLv.を上げているとは……


 元々、高Lv.だったとはいえ、転生期間はヴァリターとほぼ変わらないはずだ。


 ヴァリターは前回の転生でやっとLv.45を越え、ついに天界のスキル『状態異常無効』を魂に刻んでやれるところまで成長した。


 これで封印していた体に戻してやれそうだが、今までの転生期間で上げられたLv.は『10』ほどだ。


 そのことから考えても、この者のLv.上昇率は尋常ではない。


 一体、どのようなやり方をすれば、それほどまでにLv.を上げることができるのか、不思議でならない。


 それにしても、さっきから視線を彷徨わせているこの者は、どうやら現状の理解ができていない様子だ。


 『封印室』の扉を開けられたことの意味を少し考えれば、自身の出自くらい、すぐに分かるであろうに。察しが悪い……


 そういうところは、父親に似たのかも知れん。


 (どうやらレファス様は、このことに気が付いておられんようだな……)


 気が付いていれば、下界に派遣などしなかっただろう。


 ならば、気付かれる前に全てを終わらせなければ……



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……お前に提案がある」


 ギラファスが唐突に、平和的な雰囲気を漂わせながら、そんな言葉を口にした。


 どういう風の吹き回しで、こんな謙虚な態度を見せているのかは分からないけど、これまでのことを考えると信用はできないな……

 きっと、姫さまのスキル解除を迫ってくるだろうから気を付けないと。


「な、何だよ……姫さまのことなら……」

「お前が『我輩の提案』を受け入れるのなら、下界の王女には二度と手出ししないと誓おう」


 ギラファスは、意外なほどあっさりと、姫さまから手を引くことを提案してきた。


 あ、あれ? ボクの予想とはまるで違った。


 絶対、スキルの解除を迫られると思っていたのに、あれほど迫っていたスキル解除を諦めてもいいと言っている……


 ……怪しい、怪しすぎる……絶対、何か裏があるような気がしてならないよ。


 何だか嫌な予感がして、ボクはいつでも通路に飛び出せるように身構えた。


「……いったい……何を企んでいるんだ?」

「我輩は長年、消滅者を復活させる研究をしてきた。論理的には可能なそれを実践に移すためには『消滅者の欠片』が必要なのだ」


 ギラファスはそう言うと、ジッとこちらを見つめてきた。


 (ゔゔっ? そんな探るような目で見ないでほしいんだけど……)


 何だか、全身を隈なく検査されているみたいで、ゾワゾワしてしまった。


 体を硬くしながら次の言葉を待っていると、ギラファスがおもむろにボクを指さしながら言った。


「お前が宿している『その欠片』を我輩に譲れば、下界の王女の安全を保証しよう」

「!!」


 ギラファスのその言葉を聞いた瞬間、ボクは反射的にラボから飛び出していた。

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