☆予想外の人が現れました⑥

 ギラファスが眉ひとつ動かさず告げた内容は、とてもショッキングなものだった。

 フィオナが、顔面蒼白になっていた理由はこれだったのか!


 霊界での滞在可能期間は一週間。

 下界も同じだとすると……既に、王女の魂は……


「しかし、自力で転生している可能性は十分ある。我輩から逃げ果せるほどの自我と機転を持ち、頑丈かつ屈強な魂をしていたからな」

「おっ、王女様は自力で逃げ出したの!?」


 ボクは、いなくなったと聞いた時、てっきりギラファスがどこかに置き去りにしてしまったんだと思っていた。

 それで、後になって慌てて探しているものだとばかり……


「暴れに暴れ回った挙句、我輩の顎に体当たりを食らわせ、不覚にも気を失っている間にいなくなってしまった」


 つ、強い、……強すぎる。 

 か弱い王女様のイメージだったのに、想像の斜め上すぎる……

  本当に生まれたばかりだったの?


 まあ、ギラファスも相手が赤ん坊だったから油断していたんだろうけど……


 とにかく、聞いた感じ、確かにたくましそうだから王女の魂が転生している可能性はあるかもしれない。


「転生している可能性は分かったけど……でも、その条件だと該当者が多すぎて、消去法になってないんじゃないの? 調べるのも大変——」

「この国の王女の確認で最後だ」

「っ!! 該当者を全部調べたの!?」


 凄すぎる……

 世界はここだけじゃ無いから、きっと天文学的な数になったはずだ。

 時間も労力も尋常じゃなかっただろうし……


 ここまで考えて、ふと思った。

 そもそも、ギラファスは何のために天界の王女様を誘拐したのだろう。


 恨みを伴ったものなら、魂が行方不明になった時、ここまでしないような気がする。

 身代金? それも違う気がするし……


「あの……そもそも、あなたはなぜ天界の王女様を誘拐したの? しかも、霊魂分離スキルまで使って」

「…………」


 これまで、こちらの問いに答えてくれていたギラファスが押し黙ってしまった。

 その件に関しては黙して語らずの姿勢を貫くようだ。


 ボクの隣では、少し気力を取り戻したフィオナが、『真実を見抜く目』を発動させながらギラファスを睨んでいる。


 ギラファスにとって、何か知られたくない事情があるのだろうか……


「ガッロル・シューハウザー、我輩はお前に用があって、今、ここにいる」

「!! ガーラ様! 私の後ろに隠れてください!」


 ギラファスが、今までの会話を打ち切るように、ゾッとするような低い声で話し出した。


 纏う空気が重くなり、目つきが鋭くなっている。


 ギラファスの態度が変わったのと同時に、何かを感じ取ったフィオナが、ボクを背中に庇うとギラファスと対峙した。


「さっきも話したように、ルアト王国の王女の魂を確認せねばならん。王女にかけられたあのスキルを解除するのだ」


 ギラファスが、言葉に何かの力を込めながら、その瞳を真紅に怪しく光らせ始めた。

 またしても、『洗脳』と『自白』なのか?


 昨日と違って、あまり力は感じられなかったが、それでもボクはグッと口を固く結んで構えを取った。


「魂の確認なら、我々天界政府が行う! ギラファス! 貴様は大人しく縛に就け!」


 ボクと同じように隣で身構えていたフィオナが、急に空気が震えるほどの大声を上げてギラファスを牽制した。


 (しまった! ボクじゃなくてフィオナさんにっ)


 これは『洗脳』じゃなくて『挑発』だ。


 スキルの影響を受けたフィオナは、フェニックスの名に恥じない苛烈な炎を身に纏ったかと思うと、あっという間にギラファスに踊りかかった。


「あぁっ! ダメだ、フィオナさん!! ここで戦っちゃ!」


 周りには多くの一般人。

 さらに、4、5人の見物人が至近距離まで近づいてきていた。


「ふんっ!」


 ギラファスは鋭い掛け声と共に、切り裂くような動きで腕を斜めに振り下ろした。


 激しい衝突音が響いたかと思うと、フィオナがボクの頭上を越えて吹っ飛んで、ドサッと鈍い音を立てて地面に叩きつけられた。

 それに被せるように、近くの見物人が悲鳴を上げた。


「フィッ、フィオナさんっ!!」


 飛んでいってしまったフィオナに駆け寄ろうとした時、前を一人の男によって遮られてしまった。


 気付けば、ボクはいつのまにか、見物人だと思っていた男たちに周りを取り囲まれてしまっていた。


「お前は、人の心配なぞしている場合ではないのではないか?」


 至近距離(背後)で告げられたギラファスの声に、ビクッと体が跳ねる。


 そして気がついた。


 ——スキル『転移』——


 これは、転移の能力スキルを発動するときの構えだ。


 こ……このままではっ!


 ゾクリと、背筋に冷たいものが走った。


 と同時に、ギラファスがサッと手を振って合図を送ると、ボクを取り囲む教団員が一斉に『スキル』を発動した。


 すると、周囲の景色が一変。

 商業施設が立ち並ぶ賑やかな大通りが大きく歪み、朧げになったかと思うと、次の瞬間には、辺りは鬱蒼とした森の中へと変わってしまっていた。

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