エピローグ
チュンチュンチュンチュン。雀の声で目が覚める美和。時計を確認すると12時を回っていた。やばい遅刻なんてもんじゃない。加賀美警察署に電話をかける。
「もしもし、こちら加賀美警察署です」
「出雲美和です」
「出雲警視、おはようございます。本日は非番と聞いていますがどうかしましたか?」
「えっ?」
「佐々木一課長より、本日出雲美和は非番になったとお聞きしたのですが、手違いでしょうか?」
「いえ」
「昨日は大変御活躍だったみたいですね。怪奇課を応援する一ファンとしてとても嬉しいです」
「活躍?」
「はい。首なしライダーと一戦交えたそうですね」
「えっ?」
「私は裏の掃除屋ですから後処理大変でしたよ」
「それ電話越しで話してはいけない内容では」
「大丈夫ですよ。私の声は誰にも聞こえませんから。神の加護を得た神憑か巫女様でないとね」
「貴方は一体誰?」
「それがわかるのはもう少ししてからですかね。出雲警視、その件なら了解しました。調べておきますね。ゆっくり身体を休めてください。お疲れ様でした」
「お疲れ様です」
最初と最後だけが録音に残るんだろう。副総監が気を利かせてくれたみたいね。圧力をかけられた佐々木一課長の苦悶の顔が目に浮かぶけど。せっかく休みになったのなら楓に電話してみようかしら。
「もしもし楓、美和だけど」
「美和、照美に翔くんのこと話した。だいぶショック受けてたけど何とか受け入れて前に進もうと頑張ってる。5年も寝ていたから筋肉が痩せ細っていてね。痛々しいけどリハビリも頑張ってる」
「そう良かったわ。いつか3人でお茶しましょう。その時は照美さんのこと紹介してね」
「えぇ照美にも美和にも私と宇宙の結婚式に来てもらいたいから。今は照美の回復待ち」
「それまで待てるのかしら?」
「何年待ったと思ってるのよ。後1年や2年伸びたところで何の問題もないわよ」
「そかそか」
「美和は良い人とか居ないの?」
「私?居ないわね。あっでも好きな人ならいるわね」
「誰誰?」
「小説家の先生なんだけど『怪奇事件捜査File』って作品を書いてる揚惇命先生。顔もどんな人かも謎なのだけど登場人物の主人公の名前がね私と同姓同名なのよ」
「へぇーそれはすごい偶然ね」
「えぇ。楓も今度読んでみてよ」
「機会があればね。あっ照美が起きたからそろそろ切るわね」
「えぇ」
楓との電話が終わると昼食作るのめんどいなぁマスターの店に顔出そう。支度を済ませると向かう。
「行ってきまーす」
美和の行きつけの店『バルガモス』マスターお手製のブレンドコーヒーと卵サンドのセットが絶品だがこれは朝メニューと言われるやつでお昼はお昼でさらに美味いのがある。考えていると久々に食べたくなってきた。
カランカラン
「いらっしゃいませ。って美和ちゃん。今日は遅いね」
「マスター、ナポリタンセット」
「ハハハ。昼といえばだね」
「久々に食べたくなっちゃって」
「はいよ。ちょっと待っててね」
カウンター席でマスターの作る料理を見るのも美和の楽しみなのだ。暫くすると良い匂いがしてくる。
「美和ちゃん、ナポリタンセットできたよ」
「マスター、ありがとう」
ナポリタンセットとは、ナポリタンと春キャベツの蒸しサラダとクリームソーダが合わさったものである。昼メニューで朝には無い。
「いただきます」
ケチャップのよく絡んだパスタとソーセージにピーマンとタマネギ、定番に勝るものは無い。シャキシャキ感の残っている春キャベツのサラダも美味しい。クリームソーダにもよく合う。
「ごちそうさまでした」
「美和ちゃんは、美味しそうに食べてくれるから見てるとおじさんまで元気になるよ」
「マスターの料理は何でも美味しいからね」
「ありがとう、来月から夜もやることになってね。って言っても今まで17時終わりだったのが22時までになるだけなんだけどね」
「身体壊さないでよね」
「心配、ありがとね」
「夜の限定メニューもあるから帰りにでも寄ってよ」
「是非是非、マスターの夜メニュー今からワクワク楽しみだよ〜」
「美和ちゃんが喜んでくれておじさんも嬉しいぞ〜」
「ふと目に入った輪廻の新聞に目を通す」
『首なしライダー事件、完全決着か?ここ最近連続で起こっていた首がない死体の発見だがバタリと止まった。首なしライダーがどこかへ去ったのか?はたまたどこかの高名な陰陽師に対峙されたのか?詳細は謎だが倒されたと考えている。いずれにしても輪廻として一つのホットワードが消されてしまった。こんなことを言うと不謹慎かもしれないが新たな怪異の出現に期待したいと思うこの頃だ』
「ホント、こっちの苦労も知らずに不謹慎よね」
「ハハハ。輪廻かい。一応お客さんの中に読みたい人もいるから一通り取り揃えてはいるんだけどね」
「へぇ〜。今度から私も買わずにここで読もうかな」
「全然構わないよ」
「やったぁ。じゃあ、そろそろ帰るね」
「勘定だね。ナポリタンセット950円になります」
「1000円でお釣りは要らない」
「ありがとね。気をつけていってらっしゃい」
「行ってきまーす」
出雲美和の怪奇特別捜査課としての初の事件はこうして幕を閉じたのだった。
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