第2話 正義のヒーロー 身バレのピンチ!③

 翌日。


「おはよう!」


 きらが1年3組の教室に入ると、萌衣めいの周りに何人もの女子が集まっていた。

 断片的に聞こえる言葉で、昨日学校の前に集まった群衆のことではない話題のように思える。



「さすがに、あの悪夢のような群衆のことは、みんな話さないか」


 煌は、萌衣たちの後ろを通り、席にカバンを置く。

 すると、萌衣が突然、煌を手で呼んだ。


「なんだよ、メイちゃん」


「キラくんに、これ、バーニングカイザーの敵か判断して欲しいの!」


 女子の輪の中に煌が入ると、萌衣はスマホの画面を見せずに口を開く。


「今朝、通学路にライオンがいたの。

 それがものすごく変なライオンで……」


「えっ、ライオン?

 俺も昨日、追っかけられてるときに見たけど」


「じゃあ、どういうライオンか分かるね、キラくん!」


 そこで初めて、萌衣が煌にスマホを見せる。


「ちょっ……、お、お、大きくね?」


 映っていたライオンは、昨日煌が見たような、煌の腰ほどの高さまでしかないものではなかった。

 姿こそかわいいメスライオンだが、大きさが一夜で3倍、人の身長をゆうに超えるような大きさになっていた。


「これ、防災無線で危険を知らされてもおかしくないって」


「でしょ?

 でも、すごくおとなしいから、カメラ回してても全然問題なかったの!

 おとなしいから、たぶん市が取り合ってくれないんじゃない?」


「でもさ……、俺が見たの、かなり小さいライオンだったんだ」


「えーっ!

 キラくん、もっとかわいいライオンを見たってこと?」


「まぁね……。

 でも、なんかおかしいよ……」



 わずかな期間で強大化したドラゴンファングと、全く同じ状況が再現されようとしている。

 このライオンも、街を踏みつぶすほどに大きくなりかねない。



「ちょっと待って」


 煌は、バーニングカイザーがトレンド入りしてから全く開いてなかったtwitterを開き、急いで検索ボックスに「バフォメット」と入れた。

 バフォメットのアカウントに、萌衣が撮ったものとほぼ同じサイズのライオンの画像が、今朝投稿されていた。


「やっぱり……、あのライオンはバフォメットの仕業だ……」


「じゃあ、バーニングカイザーの敵ってこと?」


「警察でも対応できないサイズになったら、俺の出番だ」


「さっすがキラくん! 正義のヒーロー!」



 萌衣が拍手をするのに合わせ、周りの女子たちも拍手を始める。

 煌は、髪を撫でながら照れる。



~~~~~~~~



「あなた、そろそろ行く?」


「あの中学が、これ以上注目されてしまっては困るからな」



 その日、昼休みが始まる時間。

 東領家中学校の校庭がよく見える、人通りの少ない道路。

 40歳前後の男女、雄大ゆうだい晶子あきこが電柱の影に隠れて静かに話す。

 晶子の持つハンドバッグには、金色の太陽のキーホルダー。


「あの中にいるようね。

 ドラゴンファングを止めた、バーニングカイザーの魂が」


 するとそこに、自転車に乗った警察官が、二人の横でブレーキをかけた。


「お二人さん、この中学に何か用ですか」


 すると二人、は同時に警察官に振り向き、手を小刻みに左右に振る。


「すいませーん。

 東領家中に、この春から息子が通い始めてて、どういう学校生活を送っているか気になってたもので」


「あー、そうでしたか。

 不審者と間違えられるようなことはしないで下さいね」



 警察官が再び自転車をこぎ出すと、晶子がハンドバッグから光り輝く石を取り出し、息を吹きかけるように告げた。



「人間界に捕らえられた獅子の女王。

 いま、怒りと屈辱に満ちた、真の心を解き放ちなさい!

 バフォメットのプライドを、見せつけるのです!」



~~~~~~~~



「おっと……!」


 突然の地響きに、昼休みに教室にいた全ての生徒が気付いた。

 煌は、教室の窓から顔を出した瞬間、息を飲み込んだ。


「ど……、どれだけ大きくなってるんだよ!」


 今朝、萌衣のスマホで見たものとは比べ物にならないほどの大きさの、白い体のメスライオンが、学校の裏門を大きく乗り越えて、校庭に足を踏み入れた。

 全長10mほどはありそうだ。


「身近に邪悪って、こっちかよ!

 この前は駅前だったのに!」


 逃げ惑う生徒たちに、直ちに校舎に入るよう、放送で告げられる。

 煌は、校庭に誰もいなくなったのを確かめて、ギリギリ太陽の光が届くところまでミラーストーンを伸ばした。



「アルターソウル、解放リベレーション!」



 ミラーストーンが眩しい光に包まれ、その光に向かって煌が叫ぶ。



「バーニングカイザー! ゴオオオオオオ・ファイアアアアアアア!!!!」



 ミラーストーンの眩しい光が反射した方向へ、煌の体が吸い込まれた。

 光の中から、バーニングカイザーのシルエットが現れ、煌の目の前に迫る。

 その胸に描かれた炎のエンブレムに、煌の体が正面から衝突。

 同時に、金属のようなものに体が突き上げられた。



「ソウルアップ・コンプリート!」



 熱き心を胸に燃やし 輝く炎のエンブレム

 拳に勇気の火をまとい 燃えるやいばで悪を斬る

 燃え上がるは正義の魂 炎の皇帝、ここに立つ!



「灼熱の勇者、バーニングカイザー!」


 上下に弾けた光に誘われ、力強い足で校庭に降り立ったバーニングカイザー。

 巨大化したメスライオンに、早くも右の手のひらを向ける。


「来ると思いました、バーニングカイザー。

 私は、ハンターライオネス。

 我が同胞を滅ぼした残酷なロボットは、とっとと滅びなさい!」


「残酷なのは、そっちだ!

 俺たちの学校を荒らす奴は、俺が許さない!」


 身構えるハンターライオネス。

 バーニングカイザーに飛び掛かるタイミングを見計らう。

 そのハンターライオネスにはっきりと響くように、バーニングカイザーが叫ぶ!


「エナジーイグナイト点火!」


 炎のエンブレムが描かれた胸の内部で起こる、核融合。

 絶大なエネルギーが次々と生み出される。

 そのエネルギーが、両腕を一気に駆け抜けていく。


「我が同胞と、同じ道は歩まない!」


 先に、ハンターライオネスが地面を蹴り、バーニングカイザーの胸のあたりまで大きくジャンプ。

 それを見て、バーニングカイザーが力強く叫ぶ。


「フレイム……、フィンガアアアアアアア!」


 飛び掛かってきたハンターライオネスの体を、両手で掴むバーニングカイザー。

 ジャンプの勢いで重心が後ろに傾くものの、熱いその手でハンターライオネスの体を燃やす。



「おのれ……!」


 バーニングカイザーの手を逃れ、火の付いた体を震わせながら、一旦裏門の前まで退却するハンターライオネス。

 再び身構えるが、今度は目が白く輝く。


「そっちが炎なら、こっちは憎しみに満ちた光を放つ!

 ハンターアイズ!」


 ハンターライオネスの両目から放たれる、眩しい光線。

 それを見たバーニングカイザーが、すぐさま両肩に力を入れ、両肩に刻まれた三つの発射口を熱く燃やす!


「フレイム……、バスタアアアアアアア!」


 左右の発射口から同時に解き放たれた火炎砲。

 激しく燃える炎の一撃が、ハンターライオネスへの放った光線を押し返す。


「ぐああああああ!」


 火炎砲をまともに受けたハンターライオネス。

 バーニングカイザーを睨みつけるものの、足は震えていた。


「とどめだ!」


 燃え上がる右手を前に伸ばし、指を軽く丸めたバーニングカイザー。

 勇者の力の証を呼ぶ煌の声が、空気を裂く!


「バーニングソード! ブレイズアップ!」


 バーニングカイザーの左腕を覆う、先の尖った四重の装甲、そして金色のつば

 格納された柄とともに、肩から前に押し出される。

 四重の装甲が、燃え上がるように1段1段前に伸び、1本の長い剣が出現。

 カーブを描きながら、柄がバーニングカイザーの右手に吸い込まれ、炎に満ちたその手でがっしりと掴む。


「燃え上がれえええええええ!」


 手に宿った熱で、鍔から上がる激しい炎。

 あっという間に、バーニングソードのブレードを炎で包みこんだ。

 左手も柄を掴み、一気に勝負を決めに行く。


「バースト……、ブレイカアアアアアアアアア!」


 力強い叫びとともに現れる、バーニングソードの最大火力!

 両手でがっしりと構えたバーニングカイザーが、足裏のブースターを噴射させ、一気にハンターライオネスに迫る。

 激しく燃えるバーニングソードが、正面からその体を真っ二つ!


「グアアアアア!」


 斬り裂かれた体に、一気に火が回る。

 そして、激しい爆音を立てて、ハンターライオネスの体が砕け散った!


 軽々しく着地したバーニングカイザーが、爆発した相手に振り向くことなく、剣先を前に伸ばす。

 剣の炎は、まだ燃え上がっていた。



「悔しいけど、バーニングカイザーの実力は、想像以上のものね」


 終始電柱の影でバトルを見ていた晶子が、そう言い残して学校の前を立ち去った。



~~~~~~~~



「すっごくカッコよかった、バーニングカイザー」


 教室の戻った煌の横に、さっそく萌衣が立った。

 煌は萌衣に振り返り、首を横に振る。


「そう言ってくれるのはいいけどさ……。

 学校でバトルしたくなかったな。

 ニュースでも明かされなかった学校名がバレちゃうし」


「たしかに、難しいよね。

 でも、バーニングカイザーが必ず学校を守ってくれるから!」


「それ言われると、マジ照れる」



 煌は、萌衣がうなずくのを細い目で見た。

 クラスどころか、全校生徒にまで広まってしまったことなど、もはや大した問題でもなかった。



~~~~~~~~



【今週のアルターソウル】


ハンターライオネス

 見た目は可愛いメスライオン。

 短期間で成長し、学校に侵入した。

 ライオンらしく直接食いかかる攻撃もさることながら、ハンターアイズと呼ばれる光線で相手を攻撃することも。



【次回予告】


俺、神門 煌!

俺の中学、バスケ部にばん 勇斗ゆうとっていうマジ強い先輩がいるんだ。

愛称はワイバーン。

で、俺、仮入部どころか試合まで見に行ったんだ。

でも、なんか勇斗先輩に、本物のワイバーンのシルエットが見えるんだけど。


次回、灼熱の勇者バーニングカイザー。

「バスケ部のワイバーンは人気者!」

平和な世界へ、ゴオオオオオオ・ファイアアアアアアア!!!!

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