第1話 勇気と炎のスーパーヒーロー誕生!③

「バレないように……!」


 たぶんほとんどの男子が、教室や校庭から駅前のドラゴンを見ている。

 つまり、今の時間で一番「安全」なのは、男子トイレだ。

 きらは、男子トイレの個室に、急いで駆けこんだ。


「俺、いまスーパーヒーローになるからな!」


 煌は、ミラーストーンをポケットから取り出し、持ったまま腕を正面に突き出す。

 確信はないが、魂を解き放つアイテムがこれのはずだ。

 調べたとおりに、煌が叫ぶ。



「アルターソウル、解放リベレーション!」



 だが……


「な……、何も反応しない……!」


 煌は、天井にミラーストーンをかざすが、結果は同じだ。

 そこに、再び魂が語り掛ける。


『我が魂は、光の差す場所でしか解放されない……』


「光……」


 煌は、石に手を乗せた時のことを思い出す。

 踊り場から届く外の光に、石が反射していた。

 バーニングカイザーの魂を解き放つときも、同じように外の光が必要になるのかも知れない。


「いない……」


 煌は、個室から出て、窓から光が差し込む場所に立った。

 ミラーストーンを空にかざす。

 太陽の光が石の表面で反射するのを見て、煌は叫んだ。


「アルターソウル、解放リベレーション!」



 突然、ミラーストーンが眩しい光に包まれた。

 その光に向かって、煌が叫ぶ。



「バーニングカイザー! ゴオオオオオオ・ファイアアアアアアア!!!!」



 ミラーストーンの眩しい光に飲み込みまれ、煌の体が宙に浮く。

 光の反射した方向へと吸い込まれていくようだ。


「俺の……、アルターソウル……!」


 光の中から、バーニングカイザーのシルエットが現れ、煌の目の前に迫る。

 その胸に描かれた炎のエンブレムに、煌の体が正面から衝突。

 同時に、金属のようなものに体が突き上げられるような感触を覚えた。



「ソウルアップ・コンプリート!」



 体を飲み込んだ光が、上下に大きく弾けていく。

 眼下に広がるは、煌が見慣れた領家駅前の大通り。

 狙われたタワーマンションは、すぐそこだ。

 弾けた光に誘われるように地上に降りていく体を、その目は見た。


「鋼の体……」


 そこにあったのは、煌の肉体ではない。

 どう考えても高さ20mはある、バーニングカイザーの体だ。

 アルターソウルとの融合。

 それは魂を一つにし、アルターソウルの体をも蘇らせること。



「これ、マジだ……!

 マジで俺……!」



 熱き心を胸に燃やし 輝く炎のエンブレム

 拳に勇気の火をまとい 燃えるやいばで悪を斬る

 燃え上がるは正義の魂 炎の皇帝、ここに立つ!



「灼熱の勇者、バーニングカイザー!」



 激しい音を立てて、重厚な鋼鉄の足で大地を踏みしめるバーニングカイザー。

 アニメを一度も見ていないにも関わらず、名乗りの言葉を力強く発し、両手の拳を強く握りしめる。


「何もかも、思い通りに動かせる!」


 それこそが、アルターソウルと融合した何よりの証だ。



「来たな……。

 我らの敵のアルターソウル!」


 ベランダが荒らされたタワーマンションの後ろから、姿を見せるドラゴンファング。

 白い体を高く伸ばし、街を襲った鋭い爪を、バーニングカイザーに向ける。

 頭は、バーニングカイザーと同じ高さだ。



「街を破壊する奴は、俺が許さない!」


 ドラゴンファングに向かって、右足を前に出すバーニングカイザー。

 それを見て、バーニングカイザーに突進を始めるドラゴンファング。


「バーニングカイザー。

 その魂を、我が滅ぼす!」


「そうはさせるかあああ!」


 響き渡る、力強い叫び。

 バーニングカイザーの魂が、いま燃え上がる!


「バーニングカイザー、エナジーイグナイト点火!」


 炎のエンブレムが描かれた胸の内部で起こる、核融合。

 絶大なエネルギーが次々と生み出される。

 そのエネルギーが、両腕を一気に駆け抜けていく。



「フレイム……、フィンガアアアアアアア!」


「何ィ!」


 バーニングカイザーの全ての指から燃え上がる炎!

 両手が、熱い炎に包まれる!

 一瞬動きを止めたドラゴンファングの体に、その両手を伸ばし、掴み取った。


「なっ……」


「焼き尽くせええええええ!」


 うろこが一気に焦げる、ドラゴンファング。

 バーニングカイザーの手から放たれた炎が体に回り始める。

 目の前のバーニングカイザーを蹴り上げようとするが、小さい足では鋼鉄の足に届かない。


「うおおおおおっ!」


 バーニングカイザーが、炎で焦がした相手を10m突き飛ばす。

 よろけるドラゴンファングを睨みつけた。

 相手は、肩で息をしている。


「とどめだ!」


 燃え上がる右手を前に伸ばし、指を軽く丸めたバーニングカイザー。

 勇者の力の証を呼ぶ煌の声が、空気を裂く!


「バーニングソード! ブレイズアップ!」


 バーニングカイザーの左腕を覆う、先の尖った四重の装甲、そして金色のつば

 格納された柄とともに、肩から前に押し出される。

 四重の装甲が、燃え上がるように1段1段前に伸び、1本の長い剣が出現。

 カーブを描きながら、柄がバーニングカイザーの右手に吸い込まれ、炎に満ちたその手でがっしりと掴む。


「燃え上がれえええええええ!」


 手に宿った熱で、鍔から上がる激しい炎。

 あっという間に、バーニングソードのブレードを炎で包みこんだ。



「おのれ……!」


 体勢を立て直したドラゴンファングが、再びバーニングカイザーに大股を踏み出す。

 だが、炎の剣を手にしたバーニングカイザーは、全く動じない。

 バーニングカイザーの左手も、剣の柄を掴む。

 勝負を決める時は、来た。


「バースト……、ブレイカアアアアアアアアア!」


 力強い叫びとともに現れる、バーニングソードの最大火力!

 両手でがっしりと構えたバーニングカイザーが、足裏のブースターを噴射させ、一気にドラゴンファングに迫る。

 激しく燃える剣で、正面から斬り込む!


「な……っ!」


 目の前に迫ったドラゴンファングの体を、バーニングソードが真っ二つ!

 斬り裂かれた体に、一気に火が回る。

 そして、激しい爆音を立てて、ドラゴンファングの体が砕け散った!


「グアアアアア!」


 軽々しく着地したバーニングカイザーが、爆発した相手に振り向くことなく、剣先を前に伸ばす。

 剣の炎は、まだ燃え上がっていた。



~~~~~~~~



「これが……、バーニングカイザーの……、熱き力……っ!」


 煌の声が、静けさを取り戻した駅前大通りに響く。

 ロボットの圧倒的な力を、煌ははっきりと感じていた。

 何より、ロボットアニメにありがちなコックピットでの難しい操縦がなく、体の動きも既に習得している状態からの初陣ういじん

 あれだけのパワーを持ったバーニングカイザーが、負けるはずがない。煌はそう確信した。


 が……。


「俺も……、元の姿に戻れるよな。バーニングカイザー!」


 煌が不安になったその時、バーニングカイザーの体が突然白い光に包まれた。

 吸い込まれるように、その場からロボットの姿は消えていった。



~~~~~~~~



 煌は、チャイムの音が聞こえたと同時に我に返る。

 男子トイレの、それもミラーストーンを光に当てた場所だった。

 煌の手には、ミラーストーンがしっかりと握られていた。


「バーニングカイザー、石を握ってなかったよな……。

 両手で攻撃していたわけだし……」


 煌は、ミラーストーンをポケットに戻し、顔を上げた。

 そこに、秋葉主人あるとが腕を組んで立っていた。


「やっぱり、バーニングカイザーはキラで確定!」


「げ……!」


 煌は後ずさりするが、後ろは個室の壁。

 秋葉に追い詰められた。


「廊下に響く声で、ゴーファイアとか叫んでたじゃん。

 2004年のアニメが蘇ったと思って、ウチがトイレに行ったら、ちょうどキラが光に乗って消えてった」



 もう隠しても無駄か……。



「アルト。俺だよ。

 俺、マジでスーパーヒーローになったんだ。

 バーニングカイザーっていう、炎のロボットに」


「それだったら、3話で打ち切られた物語をキラに続けて欲しい!

 どんな悪を打ち砕くか、楽しみじゃん!

 まさに、リアルロボアニメ」


「結局、アニメレベルで期待してる?

 俺、体張って戦ってるんだからさ!」


「冗談! 冗談!」


 秋葉が煌の手を引っ張り、メガネの中で笑った目を見せる。


「さ、現実に戻ろう!

 5時間目が始まるじゃん!」


「う……、うん!」



 灼熱の勇者・バーニングカイザーの伝説は、今日、始まった。



~~~~~~~~



【今週のアルターソウル】


ドラゴンファング

 わずか二日で急成長した、白いドラゴン。

 手の爪で相手を突き刺すのが得意。



【次回予告】


俺、神門 煌!

俺がバーニングカイザーだってこと、どんどんバレてくんだ。

近所の人が学校に集まってくるし、俺、逃げ場ないんだけど。


次回、灼熱の勇者バーニングカイザー。

「正義のヒーロー、身バレのピンチ!」

平和な世界へ、ゴオオオオオオ・ファイアアアアアアア!!!!

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