3日目①:付喪神とのはじめてモーニング
今日も目覚ましの音で目が覚め・・・・
「起きてください夏彦さん。お休みだからっていつまで寝てるんですか?」
・・・布団をひっぺ剥がされて起きた
「さぶっ・・・」
「ヒートショックは起きない気温だと思うのですが・・・とりあえずおはようございます」
「おはようりんどう。酷い起こし方だね。明日からはやめてくれる?」
「夏彦さんがちゃんと朝八時までに起きてくれるのなら考えます」
「・・・善処します」
時計を確認すると八時一分
・・・八時を一分でも過ぎたら起こすシステムのようだ。気を付けよう
「・・・ふあ」
「まだ眠たいですか?」
「昨日の疲れもあるからね。もう少し寝ていたいというのが本音なんだけども・・・」
「そうですか・・・」
「でも、ちゃんと起きないとね。顔洗って着替えてくるよ」
「は、はい!では、私は先に台所へ戻っていますね」
そう言って彼女は俺の部屋を出ていく
彼女を見送ってから俺は立ち上がり、服を着替え、顔を洗いに洗面所へ向かった
顔を洗って、近くにあったタオルで拭く
そして、洗面所の棚にいれていた「それ」を持ってから、俺は居間の方へ向かう
今日は家から出るつもりはないし、これでも十分だろうと思ったからだ
「りんどう」
「はい、夏彦さん。朝ごはん、準備できてますよ。今・・・あれ?」
「どうしたんだ?」
りんどうは俺の目元をまじまじと見ながら首を傾げる
「・・・視力、悪かったんですか?」
「うん。普段はコンタクトを付けているけど、今日は家から出ないから眼鏡でもいいかなって思って」
「・・・どこまでも、そっくり」
「何と、そっくりなんだ?」
「お気になさらず!さあ、夏彦さん。召し上がってください!腕によりをかけて作っています!」
「ああ・・・」
はぐらかされた。凄く、不自然に
しかし、なんというか言いたくないのなら言わなくていいと思うし・・・
「まあいいか・・・」
自分の中でもどうでもいいかもな、と思い始めながら席に着く
テーブルの上に広がるのは、雑誌で出てきそうな日本の朝ごはん
炊き立てご飯に味噌汁・・・誰かの手作り味噌汁なんて初めて食べるぞ
それに焼き鮭に漬物・・・こんなもの、家にあっただろうか
「漬物と味噌は自前で用意しています。鮭は朝一で釣りに。釣りたてです」
「・・・凄いね」
漬物も味噌も自家製なのか・・・というか、どこにそんなもの隠し持ってたんだ
昨日、彼女は壺とか入れられそうな鞄とか持っていなかった
・・・これも、付喪神だからで済まされることなのかもしれない
しかも釣りたてとは!?自分で釣ってきたのか、この鮭・・・!?
聞きたいことは山ほどあるが・・・こういうのは、何でもありなのだ。深くは追及しないほうがいいだろう
「ありがとうございます。ささ、どうぞ」
「い、いただきます」
箸を手に取り、早速ご飯を口に運ぶ
普段と変わらない米。同じ炊飯器で炊いたはずなのに、その白米は瑞々しく、そのままでも美味しくいただける
「お米は土鍋で炊きました」
「炊飯器は使わなかったの?」
「・・・電化製品はわからなくて」
「なるほど。後で、家の電化製品の使い方を全部教えておくよ・・・けど、土鍋で炊いた米もいいね」
次は味噌汁
お椀を持ち、近づけただけで味噌の香りが柔らかく周囲に舞う
ほんのり暖かい味噌汁を口に含むと、なんだか心まで温かくなる
ご飯と一緒に食べてみると、口の中で味噌汁とご飯が混ざる
ほろほろと口の中で溶ける白米を噛みしめる。これは食が進んでしまう
「美味しいですか?」
「うん。こんなにおいしい味噌汁初めてだよ」
「そう言っていただけて嬉しいです。おかわりはありますからね」
鮭へと箸を伸ばす
すんなり割くことができ、小さな欠片になった鮭を口に運ぶ
外はカリカリに、身はふわふわ。ああもうだめだ。美味しすぎて美味しい以外の感想が見当たらない
最後に漬物。もうここまで来たんだ。俺の知っている漬物ではないだろう
優しい味。すっぱすぎず、硬すぎず・・・バランスの取れた漬物
「りんどう」
「はい。何でしょう」
「おかわり・・・ください」
「はい。流石に鮭のおかわりはありませんが、後はご用意しますね」
気が付いたら俺の皿は全て空になっていた
無我夢中で食べていたのだろう。こんな経験は初めてだ
・・・恐るべし、りんどうお手製ご飯
「はい。いっぱい食べて大きくなってくださいね」
「ありがとう。しかし、これ以上どう大きくなれと・・・」
「・・・え、まだ十代ではないのですか?高校卒業したぐらいだと思っていたのですが?」
「俺、三十代になんだけど。そこまで童顔?」
「・・・さんじゅう」
「ああ。今年のカウントだと三十・・・誕生日は迎えたから多分三十一。三十路は突入しているよ」
りんどうの手からしゃもじが落ちてしまう
床に到達する前にしゃもじは俺がぎりぎりのところでキャッチする
「・・・若くみられるのは素直に嬉しい。けどもう少し、三十一になったわけだし貫禄とかほしいような・・・」
「それはまだ早い気がしますけどね・・・?ごめんなさい。勝手に勘違いしていて」
「いや、言わなかった俺にも問題はあるし、気にしないで」
まだ十代に見られることにショックを受けながらおかわりのご飯を食べる
うん、美味しい。とても美味しい
おかわりを含めて完食し、俺は両手を合わせて挨拶をする
「ごちそうさまでした」
「いえいえ。これからこんな感じに毎日三食作らせていただけたらと思っています」
「こんなに美味しいなら大歓迎だよ。けど、君の負担にはならない?」
「・・・私が作らなければ、食事がカップ麺にされると考えたらぜえぇ―――――んぜん苦ではありませんよ?」
「そこまで嫌だったのか、カップ麺・・・」
「ええ。あれは健康に悪いです。これからは私が夏彦さんの健康を考えた食事を用意しますから!」
心強い台詞を、胸を叩きながら彼女が告げてくれる
「ありがとう、これからよろしくね」
「はい!では、夏彦さん。食器をください。洗ってきますから」
「あ、食器は洗うよ。これぐらいはさせて」
「ではその間に洗濯物を・・・」
「洗濯機・・・使える?」
「洗濯板、ないんです?ないなら・・・」
時代錯誤な事を言いつつ、彼女は瞬時に付喪神としての姿をとる
「尾を洗濯板の代わりにしても大丈夫ですが・・・」
「それは色々とダメ!洗濯は俺がするから少し休んでて!」
「は、はい・・・」
彼女をソファーに無理やり座らせて、テレビをつけてあげる
チャンネルは運のいいことに朝の体操番組だった
俺が子供の時にもあっていた、黄色い全身タイツのおじさんが運動する番組だ。あまり見た事はないけれど、存在だけは知っていた
りんどうはそれに釘付けになって、テレビの前で自分もその体操をし始めた
健康を守りたい付喪神だから・・・興味があるのかなと思いつつ、洗い物をしながら彼女の様子を見守る
「荒ぶるバナナのポーズ・・・彼の得意技なのでしょうか・・・」
「両手を頭の上で合わせて、片足立ち」
「それでいて、ええ、身体を横に倒すのですか?これは確かに荒ぶってますね・・・!」
「のびーーる・・・のびーーる・・・すとっぷ、です」
「いいい、ち・・・・にいいい、さあああん、しいいいいい、ごぉおおおお・・・!」
朝の児童番組に夢中な姿にほっこりする・・・その姿はまるで子供だ。いや、まるでじゃない、普通に子供だ
「ふう・・・なかなか効きますね。え、次があるんですか!?」
真面目に困惑する彼女の声と共に、俺も洗い物を終える
手を拭いていると、りんどうが俺の元に駆け寄ってくる
「夏彦さん!夏彦さん!」
「なに?」
「次のは二人じゃないとできないんです!一緒に!」
「はいはい。何をしたらいいのかな」
腕を引かれて俺はテレビの前に連れていかれる
そして次の体操をりんどうと共に行いながら、朝の時間を過ごした
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