屈辱

 俺の家は掘りこみ駐車場なので、両サイドを壁に挟まれている。

 狭い駐車場なので、幅がいっぱいいっぱいで、止める時にはいつも苦労していた。


 俺は、コロナでリモート出勤になった事もあり、しばらく車に乗らない日が続いた。

 休日も、外出を控えなければと思い、始終家でぐうたらしている。

 そんな感じで、数ヶ月が過ぎた。


 久しぶりに出勤する事になり、俺はスーツに着替えようとスラックスに足を通した。


 が、ヤバイ。

 ファスナーが途中までしか上がらない!

 俺が格闘している間にも、出勤時間は迫ってくる。


 幸いにも、父親の方が恰幅が良かったので、外出中ではあったが、スラックスを借りる事にした。

 丈は短いが、ウエストは問題ない。

 今日一日はこれで乗り切って、帰りがけにスーツ屋にでも寄ろうと思う。


 俺は慌てて家を出ると、駐車場に向かった。

 しかし、ここで思わぬ事態に直面した。

 太り過ぎて、ドアの隙間から入れないのである!

 確かに、狭い駐車場でドアを全開にする事は出来ない。

 それでも、少し太ったからといって入れない筈はないのだ。

 俺は必死に挑戦するが、どう足掻いても入れそうにない。

 俺は諦めて、電車で行くことにした。


 時計を見ると、出勤予定時刻はとうに過ぎている。

 俺は遅刻の連絡を入れねばと、電話を取り出した。

 すると、後輩が出たので、俺は遅刻する旨を伝えた。

 理由を聞かれて、慌てていた俺は「太って車に乗れなかった」と伝えて電話を切った。


 しかし、電車に乗って考える。

 まさか太って遅刻する奴などそうはいないだろう。

 後輩には、ああ言ったが、こんな理由を信じるとは思えない。

 訂正して寝坊したことにしよう。


 そう思ってドアを開けると、あちこちで笑い声が聞こえる。

 きっと、後輩から遅刻の理由を聞いたのだろう。


「おはようございます。すみません、寝坊しました」


 俺の言葉に、上司の顔が強ばる。

 変な理由を話したから怒っているのだと、そう思った。


 しかし、次の瞬間に上司が大きな声で笑いだした。


「いや、無理しなくていい。理由が本当なのはよく分かった」

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