第134話 side目黒2

「緑川先輩~。待ってましたです。もう、一人じゃ限界です……」


 特別対策チーム支部、対策分室の直したばかりのドアを開けて入ってきた緑川。彼女に向かって目黒がよろよろと近づきながら感涙を撒き散らす。

 その様子は、目黒の振る舞いもあって、どちらかといえばデスマーチあけか、もしくはゾンビっぽい。


 色んな汁をたらしながら近づいてきた目黒の頭を押さえて緑川が業務の確認を始める。


「動画はできる限り私の方でも確認していたけれど、視聴権を持つ者達の反応は? 直接ここへアプローチがあったでしょう?」

「あったなんてもんじゃないです~。出来るだけ本部に丸投げしましたけど、それでも全然さばききれません。特にあれです……」


 そういって目黒の指差した、大型のディスプレイ。常時配信されているゆうちゃんねるの映像に映っているのは、地面に刺さった五本の武器だった。


 あだむといぶの手によって綺麗に整えられたそこは、まるで儀式場か、教会の礼拝堂のような雰囲気へと変貌していた。


 同心円上に刺さった武器の中心に設えられた祭壇。

 ただ、その祭壇を形作る素材は相変わらずモンスターの素材のみだった。


 常時配信されているため、その作成風景を嫌がおうでも見続けなくてはいけなかった目黒の精神は、かなり疲弊していた。


 次々にいぶによって狩られてくる超高ランクのモンスター。その骨をあだむがどこか楽しそうに軽々と砕き、内臓と脂肪の一部と混ぜ合わせ、塗り固めていく。


 どうしてそれで固まるのかは、目黒にも全くの謎だったが、まるでコンクリートのようになったうっすらとピンク色の物体を塗り固めて、祭壇は作られていた。


 そしてなぜか祭壇の上は空だった。てっきりユウト君の像でも建てられるのかと映像を見ながら目黒は思っていたのだが、そんなこともなく、あだむは次に部屋の飾りつけを始める。


 モンスターの素材のうち、うっすらと光を放ち続ける胆石のような石を加工して間接照明のようにし、壁は竜種のうちの飛竜の翼の一番薄い部分で作られたカーテン状の物で覆われていた。


 そうして武器の刺さった部屋はすっかりどこか邪悪さの漂う、神秘的な空間へと変貌したのだった。


「あの刺さったままの武器です。皆さん、あれが欲しくて欲しくてたまらないんですよ」

「そうね……。私の方にも課長から要請があったわ。現状、クロコとのホットラインは変わらずに不通なのよね」

「そうですー。別チャネルも全て死んでます。生きてるのは、このライブ配信のコメだけです」

「……クロさんは相変わらず意識は戻らないの。加藤先輩は常時そちらに張り付いていてもらうことになったわ。もちろん、クロさんの力は全てクロコへ奪われた可能性を加味しての上の判断よ」

「長老会のご老人方はクロさんが今回の件の鍵になると見てるのです?」

「そこまではわからないけどね……」

「それで、本部の方針はなんときてるのです?」

「ユウト君不在時に、不運を使って直接クロコと接見。あだむといぶ達と商取引の形成、もしくはダンジョン探索の協業を申し出る、わ」


 覚悟を決めた表情で緑川が告げる。


「仲良くなってから、手段を模索するという流れですか」

「そう。そしてダンジョン探索の協業の場合は、各国も噛んでくる。それが上と上の落とし所よ」

「そ、そんなむちゃですよ……。良き隣人たる振る舞いから逸脱したら世界が滅んでもおかしくないのに……」

「残念ながら、ここまでは決定事項……。私は早速、これから不運の前借りに入るわ。ここはお願いね、目黒」

「……わかりましたですー」


 結局ワンオペが決定する目黒。

 涙もすっかり枯れきったドライアイで、再び独り、ディスプレイへと向き直るのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る