第30話 ダンジョン探索
「薄暗いな……」
俺は周囲を警戒しながら慎重に歩みを進める。
今のところモンスターとは遭遇していない。
変な虫が数匹、いただけだ。
「このダンジョンに出るモンスターって、タロマロさんが倒していた人型の骨、とかなんだろうな。今のところそれっぽいものはいないけど」
今いる空間は、どことなく自宅の地下室に似ていた。時たまゾワッとする。そして他より影が濃くみえる部分が、そこかしこにある気がする。
俺は無意識に手にしたピンクのバールをプラプラと振りながら進む。
「虫が増えてきた。うわ、また踏んじゃったよ。簡単に潰れてくれるのはいいんだけど」
いつの間にか、小さめの広場っぽいところに出ていた。その床を覆うほどの虫の大群。しかも雑多な種類がいるようだ。
「うん? なんか一瞬──いや、見間違いか。はあ、踏まないでいくのは諦めるしかないか」
俺は数多の虫たちが、まるで一つの生き物かのように規則正しく動いているような錯覚を覚える。
しかしザクザク、ザクザクとそれらの虫を踏み潰しながら数歩踏み出すと、それは完全に錯覚だったとわかる。逃げ惑うような動きを見せる虫たち。俺はほっとする。
「これならなんとか踏まないで歩けそう──あぁ」
言ったそばから、一際大きな虫を踏んでしまう。足うらで感じる、プチプチグチュグチュと言った感触。思わず目をつぶってしまう。
ため息を1つ。覚悟を決めて目を開けると、虫たちが消えていた。
「あれ? 逃げてくれた? 良かった……」
一般人にすぎない俺はやはり知らなかった。
俺たちが滑落してきた先がダンジョンの最下層だったことも。
一気に青相当まで存在進化をしたダンジョンのダンジョンボスとして、最下層に魔虫の群体が出ることがあることも。
最後に踏み潰したのが群体の中心存在であり、ダンジョンコアを兼ねた個体だったことも。
そして何よりも重要なことは、ダンジョンボスの放つ魔素で、耐性のない早川が昏倒していたこと。
ダンジョンボスを倒したことで薄れる魔素濃度。それにも気づかないまま、俺は汚れてしまった長靴の底を床に擦り付けるようにして虫の体液を少しばかり落とすと、よいしょと早川を担ぎ直す。
「……うぅん」
ブルーシートのす巻きから、くぐもった声がする。
俺は慌てて早川を肩から下ろすと、ちょうど意識を取り戻した早川と俺の目があう。
す巻きにされ口と鼻を覆われた状態の早川と、ピンクのバールを手に佇む俺が、じっと見つめ合う。
「いや、これは違うんだ──」
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